抄録
有明海干潟域から採集した底質についてPCB異性体分析を行った。残留濃度は概して数10ng/g (dry wt.) の範囲であり, 日本の海洋底質の濃度値とほぼ同程度で, アジア沿岸域の底質濃度と比較して全般にやや低値であった。ところが, 一部河川底質よりER-M値 (Effect Range-Medium: 400ng/g dry) を越える極めて高濃度のPCBsが検出され, 本河川におけるPCB汚染源の存在が示唆された。PCB異性体組成を指標に主成分分析を行ったところ, 有明海は全般に三および四塩素成分主体の低塩素型の汚染である一方で, 六, 七塩素成分が主体の組成を示す地域も確認され, それぞれ異なる汚染源の存在が示唆された。また, 底質とPCB製剤 (KC-300, 400, 500, 600) の異性体組成についてブインガープリント解析によるPCB発生起源の推定を行ったところ, 本河川はKC-400による汚染を受けている可能性が高いことが示唆された。さらに, 底質-カキ間のBSAFとlog Kowの相関モデルを調べた結果, 汚染源に近い場所が高塩素異性体の割合が高く, この種の成分が河川内で底質に沈降している様子が窺えた。一方, PCBsの低塩素および一部の高塩素成分は河川を通過し有明海へ流入していることが予想され, 今後, 本河川を介した汚染流入の定量的解析など詳細で多面的な環境調査を行い, その保全対策を早急に考える必要がある。