2022 年 14 巻 1 号 p. 183-187
ヒトの乳児は出生後すぐには自ら移動できないため,しばらくは養育者による移動に委ね,身体の発達とともに能動的で探索的な移動に変化していく.抱くことは移動を可能にするだけでなく,授乳やあやし,コミュニケーションの基底的手段である.本研究では,家庭内での抱きの生起と継続の様相を明らかにし,成長発達と日常生活のなかで抱きの意味を検討するために,出産から独立歩行までの発達が著しい生後1年間(各月1回24 時間連続)の2組の抱き時間を計測した.新生児期から計測をスタートし,A 参加者は7 時間29 分, B 参加者6 時間48 分だったが,A 参加者は12 ヶ月後に3 時間56 分まで減少し,B 参加者は7 時間33 分に増加した.抱きは移動やあやしのための行為から,家事と平行するためのおんぶや授乳中心に変化し,子の受動的な移動が減少する様子がみられた.