2005 年 2 巻 1 号 p. 1-12
本稿は,認知言語学の立場から,生態心理学の知見を導入することによって明らかになる言語の姿の一端を,特に自己知覚との関連から紹介する.第2節では,認知科学の中での認知言語学の位置づけ,認知言語学の意味観,および認知言語学と生態心理学の関係について概説する.第3節では,言語における自己の表現機構について,生態心理学の自己知覚論と関連づけて概説する.第4節では第3節の議論に基づいて,感情表現のレトリック,形容詞,可能表現,美化語など,具体的な言語現象を検討する.第5節では共同注意を自己知覚の共有,ひいては共感,をもたらすものと捉えた上で,それによって可能になる感情経験の伝達の諸相をみる.具体的には,日本語の一名詞句文(一語文),現象描写文,そして英語の現象描写文を検討する.