抄録
本稿の目的は,多様な子どもの学びを捉える構築型評価モデルを使って,典型的な社会科授業の一つである意思決定型社会科における子どもたちの社会認識形成過程について理論的な説明をすることにある。子どもたちの認識形成は皆一様ではなく,当該授業でも(1)「複数の観点」,(2)「一つの観点」,(3)「共感的」という3つの意思決定の類型が混在していた。当該授業の目標は「複数の観点から合理的に意思決定することができる」であることから,目標を達成(飛躍)していた子どもたちが(1),つまずきが見られた子どもたちが(2)・(3)となる。これら多様な子どもたちの認識形成を保障するため,各類型から1名ずつ抽出し,上記のモデルを使って発話や記述を基に子どもたちの認識形成過程を描き出し,それらを比較考察した。その結果,社会構造の分析に伴う価値的葛藤によって,共感的な意思決定から脱却できたか否かが,飛躍とつまずきの分岐点となることが当該授業における認識形成過程の特質として浮上した。この結果を踏まえ,(2)・(3)の子どもたちに対する指導の検討を行った。最後に,モデルの意義として以下の2点を指摘した。第1に,社会科授業を受ける多様な子どもたちを比較考察することが可能な点である。第2に,様々な立場の社会科に適応できる可能性を有する点である。