社会科研究
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「対話型」国際理解教育への試み ― 日韓の子どもを主体とした「より良い教科書づくり」実践を事例に ―
金 鍾成
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2016 年 84 巻 p. 49-60

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抄録

 相互理解は,自己と他者の視点が交わること,すなわち対話を通して互いに理解し合うことを意味する。 自己と他者の相互理解を目指す国際理解教育において,対話は重要な意味を持つ。この観点から韓国を対象とする日本における国際理解教育の取り組みを分析すると「実際の対話が存在しない」という課題が見えてくる。「他者の視点」を認識する必要性は主張されていても,その理解は自己内で完結してしまい,実際の対話までは至っていない。

 そこで本研究は,日韓両国における「真正な対話」が生まれる単元を開発・実践し,その効果を検証するアクション・リサーチを行う。日韓の子どもは,日本の小学校6年生の社会科教科書のなかで韓国を扱っている部分を素材とし,「より良い教科書づくり」実践に取り組む。韓国の子どもは,その教科書の内容を「知る」,そのなかの日本という「他者の視点」を「認識」,「分析・批判」し,韓国の意見を日本の子どもに「提案する」。日本の子どもも同じ過程を繰り返すことで提案された教科書に対する意見を韓国の子どもに逆提案する。また,より良い教科書にするために韓国の子どもは日本の意見に対する自分らの意見を日本の子どもに再提案する。

 授業後,日韓の子どもは他者を対話の相手として捉え直し,互いに対する否定的な理解を減らす傾向をみせた。相手に対する開かれた姿勢を持つようになり,これからの日韓関係をより良くしていきたいという意思にもつながった。本研究は,「対話型」国際理解教育の可能性を示すとともに,対話の媒体としての教科書の新たな価値,また,国家間の対話ではなく子ども同士の対話である「私たちの」国際理解教育に示唆してくれる。

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© 2016 全国社会科教育学会
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