近年,イギリスのEU 離脱や自国第一路線を歩もうとする米国政権の誕生などにみられるように,20世紀を通して確立されてきた人権の尊重や国際協調などの理念が揺らぎ始めている。このような今日の国際社会において,理念と現実の落差をどう埋めるかについて考える必要がある。そこで本稿では,学習者に国際社会における理念と現実の落差を感じさせ,その落差を埋めるという国際問題の解決過程を実際に体験させる学習を組織した。具体的には,学習者に「貿易ゲーム」を体験させ,ゲーム後に生じる格差をなくすために,ゲーム内での立場から,すなわち利害当事者としてルールを再構成させるという学習を組織した。また,本稿では,ゲームのルール自体を学習者が作り変えるという,従来にはない発想でゲームを活用した。
本実践において,学習者は,擬似的な国際社会の中で,自国と他国や国際社会全体の間に生ずる利益の対立を実感しつつ,ルールを発案した。そして,ゲーム内での様々な立場から発案されたルール一つひとつの合意可能性について考えた。このように擬似的な国際社会において,実際に問題の解決過程を体験することにより,学習者は,国際問題の解決とは理念と現実の落差を埋める営みであるということに気づいた。
以上を通じて,本稿は社会科における国際問題に取り組む学習において,学習者に利害当事者として問題解決過程に取り組ませることの有効性を示すことができた。さらには,社会科におけるゲームの新たな活用方法を提示することができた。