2018 年 88 巻 p. 1-12
本論は,明治期の国民国家形成について,生徒の認識を拡大・深化できる「授業書」(中学校社会科歴史用)を開発することをねらいとしている。ここでいう認識の拡大とは,文化,なかんずく音楽・美術を国民国家の形成と結びつけて見ることのできる視点を習得することである。また認識の深化とは,明治政府が音楽・美術政策を積極的に進めた理由を説明できるようになることを意味している。
これまで,国民国家の形成については,政治・軍事・経済,そして文明開化といった社会面の変化から教えられてきた。このとき“芸術も国民国家形成の重要な契機であった”という視点の育成は,欠落していたのである。例えば,「日本画」が国民国家形成のなかで創出されたものだということを指摘している中学校社会科歴史教科書は,皆無である。だが「日本画」は昔からあったものではない。明治になってから国民国家形成の動きのなかで創り出されたものである。こうした視点を欠落させたまま明治期の文化について教えると,フェノロサや岡倉天心は「偉人」としてのみ思念されてしまい,彼らがある社会的地位にあり,その社会的役割を果たしたという側面が認識されることなく学習が終わってしまう。 また,文化が政治と切り離され,文化学習が作家と作品,そしてその特徴を覚えるだけのものになってしまうのである。
本論は,そうした状況を改め,生徒の「国民国家」形成についての認識をより多面的なものにする「授業書」案を示そうとした。