小学校社会科における社会問題学習は,個人の行為の改善をめざす形式主義的学習や実現可能性を考慮しない活動主義的学習が展開されている。これらの学習は,子ども自身が問題を自覚していないため,政策提案の自律性を欠くものとなる。そこで,本研究では,自律的政策提案を促す小学校社会科の授業構成を明らかにし,授業実践の分析をとおしてその有効性について検証した。授業構成を明らかにするにあたっては,社会問題の解決への動機の形成過程に着目した。動機の形成は,状況的興味の喚起から個人的興味の発現に至る興味の発達によって行われ,それが問題解決への積極的関与につながっていく。 本研究では,学習者の興味の発達の論理を社会問題の自覚化として位置付けることにより,子どもは自律的政策提案が可能になると考えた。
本研究は次の2点の意義をもつ。
1点目は,学習に対する子どもの動機の形成過程,その中でも興味の発達過程を社会問題の自覚化の過程と位置づけ,その構造を明らかにしたことである。2点目は,自律的政策提案を促す授業構成を明らかにし,その有効性を検証したことである。自律的政策提案を促す授業構成によって,子どもは段階的に社会問題への興味を発達させ,自覚化していく。また,その判断理由を生活経験や授業の中で構成した知識と関連付け,価値の認知を高めることで自律的政策提案を行うようになる。