本研究の目的は,中学校公民的分野の教科書6冊にみられる障害記述を批判的に分析し,社会科教科書に埋め込まれた「障害メッセージ」の特質と課題を明らかにすることである。研究の手続きとして,教科書記述を対象に「障害描写の有無」,「障害の原因や所在」,「障害の解消方法」の3つの視点から分析し,「一貫性(coherence)」の視点からメッセージ性を読み取った。分析の結果,次のような特質と課題が明らかになった。
第1に,「障害の原因や所在」について曖昧にしてはいるものの,障害問題の解消は必要であることや,その方法の模索について必ず訴えるという特質が挙げられる。一方で,これにより顔の見えない「静的な客体」としての障害者イメージを強めるという課題も併せ持つ。第2に,障害の所在は曖昧,もしくは個人の心身にあるとするが,問題の解消は社会で負うとする特質が挙げられる。一方で,そこで生じる矛盾が「温情を与えるべき弱者」としての障害者イメージを強めるという課題も併せ持つ。より包摂的な社会科教育にむけ,障害を社会的に捉える「障害の社会モデル」に基づく教科書記述の見直しや,障害を社会問題として捉え,乗り越えるための社会科教育実践,そのような実践を担う教員養成を行う必要がある。