社会科研究
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公民科「政治・経済」における「複数の視点」からの知識統合
― 「独占」に着目して ―
相田 直樹
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2023 年 98 巻 p. 1-12

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抄録

 本稿の目的は,「複数の視点」からの知識統合と題して「政治・経済」の単元を開発することにある。はじめに,本稿では「視点」を「特定の対象に対し,ある一つの立場が有する見方及び考え方」と定義する。生徒にとって,「複数の視点」を取得することは,1)今後様々な政治活動や社会活動に参加していくために,2)異なる文化や,他国の人々の考え方について,本質的な意味での理解をするために,そして3)教科学習だけでなく,社会生活を送る上で必要な社会性を涵養するために必要である。先行研究では,「複数の視点」を取得させる様々な授業実践が示されてきたが,市場経済の学習における「複数の視点」取得についてはほとんど検討されてこなかった。
 そこで本研究では,「独占」を「複数の視点」から学習させる授業モデルを構成することを主要な目的とした。基本的に,独占禁止法は,独占によって市場から排除された者にとって経済活動の自由を取り戻すために必要である。一方で,市場を独占する者にとっては彼らの自由の制限となる。すなわち,この単元を通じて生徒は,独占禁止法を自由への制約ととらえる立場と,自由の促進ととらえる立場の二つがあることを学ぶことができる。生徒は,「独占すること」のメリットを議論するグループと「独占されること」のデメリットを議論するグループに分かれ,その後,新たなグループを作って両方の視点から再考する。
 本稿は,「複数の視点」を強調することによって,市場経済の教育における新たな展望を提起するものである。よって,生徒は様々な問題についてより詳細に議論し,より本質的な視点を獲得することができるだろう。

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