日本中央競馬会競走馬保健研究所報告
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競走馬におけるS-LDH isoenzyme
特にS-LDH5の出現と肝機能障害との関連性について
山岡 貞雄亀谷 勉
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1972 年 1972 巻 9 号 p. 55-66

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抄録

 馬におけるS-LDH isoen2ymeについての臨床的価値を検討するために,われわれは吉田のLDH isoenzyme分析法にしたがって,まず健康馬1例の臓器ならびに19例の健康馬血清のLDH isoenzyme正常分布を調べた。さらに2例の四塩化炭素中毒馬,3例の接種伝貧馬,1例の野外伝貧馬(慢性型)におけるS-LDH isoenzymeの推移から, S-LDH、の出現と肝機能障害との関連性を中心に考察したところ,次の成績を得た。 1)健康馬の臓器LDH isoenzymeは5分画より成り,LDH、は赤血球,心筋,小脳,膵,腎に,:LDH2は唾液腺に,LDH3は副腎,脾,淋巴腺,大脳に,LDH は甲状腺,肺,骨格筋にそれぞれ高率に分布していたが,LDH5を含む臓器は肝,骨格筋,白血球のみであった。また,馬消化管の組織LDH isoenzymeは主としLDH3,LDH4より成っていたが,幽門部と胃底部ではLDH1,LDH2が高かった。 2)健康馬19例のS-LDH isoenzymeは,LDH3が42.1±4.3%と最も高く,以下LDH234.0±4.0%,LDH119.4±4.8%, LDH44.2±2.0%と続いたが,LDH5は全く認められなかった。また,健康馬血清の保存条件として,凍結保存は冷蔵庫保存より優れていた。 3)相対的易動度の上から,馬S-LDH isoenzymeと血清蛋白分画の位置を比較したところ,LDH1はalbuminの後端, LDH2はα2-globulin,LDH3はβ2-globulin(原点),LDH4はβ2とγ-globulinの中間に,またLDH5はγ-globulinの前端にそれぞれ検出されることを知った。 4)四塩化炭素中毒馬2例におけるS-LDH5の出現期間は投与後1~2日間と推定された。また四塩化炭素を0.4m1/kgずつ,毎週1回,計9回にわたって投与した1例のLDH5の活性比とS-GOT値には,投与の度に減少する傾向がみられた。 5)伝貧馬のS-LDH活性は発熱にやや遅れて増加し,この時期のIsoenzyme活性に値の上でLDH3,LDH1,LDH2の順位が,その増加率の上ではLDH4の著増が特徴的であった。  また,接種伝貧馬におけるLDH5の出現は, LDH4に活性比の増加を見た早期発熱期(第15~35病日)に集中する傾向があった。しかし1例の慢性型野外伝貧のこれら傾向は接種伝貧例に比べると軽微と言えた。  以上の成績から,健康馬血清に見ることのできないS-LDH5の出現を確認することは,競走馬の肝細胞障害を早期に診断する上で有効な指標と考える。

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