日本中央競馬会競走馬総合研究所報告
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競走馬のTying-up Syndromeにおける血清中及び尿中筋色素量の診断上の意義
渡辺 博正池田 正二山岡 貞雄亀谷 勉長沢 良信滝沢 勇長谷川 充宏
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1978 年 1978 巻 15 号 p. 79-90

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抄録

競走馬の筋疾患解明の一助とするため血清中及び尿中の筋色素 (以下Mb) の免疫拡散法による検出法及び半定量法を検討し日競研報No. 12に報告した。今回は1976年10月から1977年3月の間に, Mb血症の認められた競走馬の筋疾患症例8例について発症日及び経日的に血清中のMb濃度, および発症日に採材できた4症例の尿中Mb濃度を測定した。ついで, 本症におけるMb濃度の診断上の意義を検討するために発症時の臨床症状の軽重と血清中及び尿中Mb濃度の多少との関連を検討した。
症例はサラブレッド種で雌3歳5例, 雌4歳1例, 雌5歳1例及び雄3歳1例であり, 2例が調教中に, 6例が調教後に発症した。一時的な歩行障害もしくは強拘歩様, 発汗及び筋の硬化, 疼痛がほぼ全例に観察され, 筋の振顫, 尿閉及び蠕動の減弱もしくは廃絶も認められる症例があった。歩行障害は歩行不能3例, 歩行困難1例及び歩様強拘4例に区分でき, 臨床症状の軽重の指標として, もっとも明瞭と考えられたため, これによって検討した。その結果, 発症時の血清中Mb量は, 次のとおりであった。
歩行不能例 384μg/ml≦Mb<768μg/ml
歩行困難例 192μg/ml≦Mb<384μg/ml
歩様強拘例 48μg/ml≦Mb<192μg/ml
また, 4症例の尿検体はすべてMb陽性であり
最大値は 6144μg/ml≦Mb<12288μg/ml
最小値は 192μg/ml≦Mb<384μg/ml
であった。
血清中Mb量は発症時に最も高値を示し, その後漸減し, 発症の翌日もしくは第3病日には概ね消失した。以上のように, 血清中のMb量は発症後最初に採材された検体において最高値を示し, このような症例の筋障害の程度をよく反映すると考えられることから, 早急な鑑別診断に有効であり, また病性の判定にも有用と推察された。8症例のうち2症例にMb血症を伴なう比較的軽度の再発があったが, このことについてはさらに症例を加えて検討することが必要であると考えられた。

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