抄録
ゲタウイルスの馬に対する病原性を調べるため, 自然感染発症馬の血漿由来の数株を細胞継代歴0, 2, 3, 10代目にて実験馬へ筋肉内接種した. 細胞継代0-3代目のゲタウイルスを接種された馬はいずれも接種後2ないし3日目に発熱し (2-6日目, 最高体温38.9-40.2℃), 後肢の浮腫 (3-7日目), 顎下リンパ節の腫大 (2-5日目) などの臨床症状を示したが, 発疹は認められなかった. また, 血液所見として急性時のリンパ球減少症 (1-5日目) および回復時の単球増多症 (5-10日目) が確認された. ウイルス血症は接種後1-5日目にかけて認められ, 中和抗体価は6日目から上昇して2週間目にピークに達した後2ヵ月目までほとんど低下せずに持続した. 一方, 細胞継代歴10代目のウイルスを接種された馬ではいずれも発熱, 浮腫, 顎下リンパ節の腫大などの臨床症状, 血液学的変化およびウイルス血症は認められなかったが, 軽度の発疹が2頭の頸部に認められた (7-10日目). また, 中和抗体は6ないし7日目に検出されたが, 抗体価は前述の例よりも低い傾向にあった.
剖検馬の各臓器からゲタウイルスの回収を試みたところ, 4日目殺例では脾, 肝, 肺, 脊髄, 骨髄, 各種リンパ節にウイルスが分布し, そ径リンパ節と腋窩リンパ節で特に高いウイルス価が得られた. しかしながら, 13日殺例ではいずれの臓器からもウイルスは回収されなかった.
以上の成績から, ゲタウイルス自然感染発症馬で認められた発熱, 発疹, 後肢の浮腫, 顎下リンパ節の腫大という臨床所見が実験感染によっても確認され, 馬に対するゲタウイルスの病原性が実証された. また, その病原性は株間において差が認められないが, 細胞継代によって減弱することが明らかとなった. さらに, ゲタウイルスの体内増殖の主な臓器はリンパ系組織ということが示唆された.