抄録
生産地の馬群における馬のウイルス感染症の防疫対策ならびにトレーニングセンター (トレセン) への入厩馬に対する検疫プログラムを検討するために, 5年間にわたって関東地方の一生産牧場を監視下におき, トレセンで発生の認められる馬鼻肺炎, 馬アデノ, 馬ロタおよび馬ライノ1型の各ウイルスに対する血清疫学調査を実施した. その結果, 1983年と1985年に当歳馬群と明け2歳馬群内に馬鼻肺炎の比較的大きな流行が3回認められ, その他の年度においても散発的に抗体上昇馬が認められた. また, 馬鼻肺炎ウイルスに対する抗体上昇馬は2月から12月までのほとんど各月に認められた. これらのことから, 生産牧場においては季節に関係なく高頻度に馬鼻肺炎ウイルスが若齢馬群間で伝播していることが明らかとなった. 近年現行ワクチン接種馬においても流産の発生が認められる事実と今回得られた成績から, 馬鼻肺炎ウイルスによる流産予防のためには, 若齢馬群と妊娠6ヵ月以降の繁殖馬群の完全隔離を徹底するとともに, 接種時期, 接種回数などのワクチンプログラムの再検討が必要であると思われた. また, トレセンへの入厩馬の防疫においては, いずれの時期における入厩馬も馬鼻肺炎の感染源となりうることを十分に考慮して検疫を実施する必要があると思われた. 一方, 馬アデノあるいは馬ライノ1型ウイルス感染若齢馬は春先の一定の時期に集中して, また馬ロタウイルス感染若齢馬は季節に関係なく散発的に, 毎年認められた.