2025 年 35 巻 p. 24-33
本研究は,汚染土壌におけるCr(VI)の還元および再酸化挙動の課題を取り上げ,共存する微量元素がCr挙動に与える影響を明らかにすることを目的とした。Cr(VI)は毒性および移動性が高く,環境リスクを低減するためにFe(II)などでCr(III)に還元する処理が行われているが,処理後にCr(VI)が再溶出する現象が問題となっている。本研究は,東京都江戸川区の汚染地で検出された31種類の微量元素がCr挙動に与える影響を検討した。とくに,複数の酸化数で安定に存在するV(IV),Mn(II),As(III)およびSb(III)の4元素に注目し,異なる条件下で各4元素がCr挙動に与える影響を解析した。その結果,Mn(II)およびV(IV)はCr(III)の再酸化を促進し,より毒性の高いCr(VI)の再溶出を引き起こすことが明らかとなった。また,As(III)はCr(III)の溶解性を高め,アルカリ性環境でCr(III)溶出を促進する可能性が示唆された。これらの結果から,共存する微量元素がCrの挙動に与える影響を考慮することが,長期的なCr(VI)浄化の安定性向上に不可欠であることが示された。今後は,汚染土壌の適切な管理と持続可能な浄化戦略の再構築が必要であろう。