2018 年 18 巻 01 号 p. 132-147
本稿は, ある公立小学校5年生の語彙の学習において児童が描いた絵を媒介的道具として,具体的なことばの概念を理解してゆくプロセスを社会文化理論(SCT)の視点から分析したものである。発達心理学分野のVygostky(1978)らの思想を源流に持つ社会文化的アプローチ(Wertsch, 1991)では, 発達は個人と個人をとりまく社会的関係や環境との相互作用の中で, 言語や人工物, そして他者とのインタラクションなどを媒介的道具として起こると考える。この授業では,英語絵本の中に出てくる<share>ということばを取り上げ,その意味を明示的に示すのではなく,絵本の内容を理解した上で, 具体的な生活体験の中でそれぞれの児童がshare する何かと関連づけながら,ことばの「感覚」を実感させることをめざした。児童たちには,それぞれがshare するものを絵に描かせたが,児童は<share>というよくわからない外国語のことばの理解を具体的に表現した道具(絵)を利用して, 他者との対話の中でことばと遊び, お互いのストーリーに共感しながらことばを繰り返し, 模倣をしながら<share>という行為の「感覚」を実感していった。つまり,SCT の見方からすれば,児童の描いた絵は,それぞれにとっての<share>の意味を表象すると同時に, クラス内で共有することで,児童らの<share>の意味を形成することを支援する媒介的道具としても機能したと言える。言語の発達は, 様々な活動を通して「他」(者, 物, 事)との関係を見出し, 「他」との共感的な関係を再構築してゆく中でおこる。本研究の事例では, 以上のような外国語学習・発達のプロセスにおいて関係性が再構築されることにより, 児童の主体性あるいは自発的な意思が発現することが明らかになった。