2018 年 18 巻 01 号 p. 84-99
小学校における外国語教育の教科化と低学年化の動きに伴い,英語教材としての絵本や物語文(ストーリー)に対する関心度が近年高まっている。ストーリーを教材として用いる意義の1 つには,まとまった英語を提示でき,意味のある文脈とともにインプットを与えられることがある(アレン玉井, 2010)。これまでの研究はストーリー教材を用いた指導の方法やその成果,教材選定のポイント等を報 告したものが多く,ストーリー教材の特徴を客観的に分析・評価した研究はほとんど行われていない。 そこで本研究では,コーパスと統計分析によって算出される文間の意味的な関連度に基づき,小学生向けストーリー教材における文脈の特徴を分析することを試みた。日本人の小学生向けに作成された 10 のストーリー教材のテキストを対象として,各教材における隣接する文間の意味的な関連度を算出 し,その平均やばらつき,具体的な文脈の記述内容を検討した。その結果,本研究で対象とした教材における文間の意味的な関連度は,先行研究で報告されている大人の学習者を主な対象とした教材の値よりも全体的に高く,文間の意味的な関連度は教材が対象とする学習者の発達段階を反映する可能性が示唆された。また,文脈の記述内容の検討から,文間の意味的な関連度に基づけば,「類似した意味を持つ文脈で出現しやすい単語が文間で含まれているか」という観点からストーリーの文脈を評価できることが確証された。これらの結果に基づき,文間の意味的な関連度に基づいて小学生向けのストーリー教材を評価する意義と,教材開発・改善への利用可能性について述べた。