2022 年 22 巻 01 号 p. 38-53
本研究は,教職経験年数が長く,小学校教師としては熟達段階にある一方で,英語の発音に自信が ないと認識する教師を事例として,授業の参与観察と継続的な省察を実施し,小学校教師が音声指導 についてどのような教師の信念を持ち,それがいかに実際の指導に反映されているのか,指導経験の 積み重ねによって新たに導かれた信念や指導はどのように変容するのか,などの点について質的に検 討した。授業者が行った音声指導は,文字との関連づけをはじめとする明示的指導が多いことが経年 的な傾向として明らかになった一方で,新たな特徴として情緒的な言葉かけとこれらと密接に関わる 児童のつまずきを解釈する言葉かけが浮かび上がった。また,2019 年度新たに導出された音声指導に 関する教師の信念は,基本的な事項を丁寧に指導する非英語母語話者 ALT とのティーム・ティーチン グの経験により修正されたことが推察された。そして,「分かること」や「できること」を重視し,機 会のあるごとに指導をすべきとする信念への回帰と,指導内容として着目する音声の要素や児童の発 音の実態などに関する視点の広がりが見られた。