小学校英語教育学会誌
Online ISSN : 2424-1768
Print ISSN : 1348-9275
ISSN-L : 2188-5966
課題研究
小学校高学年の英語授業における「名前」を起点とした 自己表現・他者理解
― Small Talk を通して ―
石森 広美
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2025 年 25 巻 01 号 p. 4-19

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Abstract

本実践研究は小学校5,6 年生の年度初めの英語授業における自己紹介の言語活動に焦点を当て, 自己表現と他者理解の側面から,名前を起点としたSmall Talk の意義と可能性を探究することである。 名前を含む自己紹介を異文化理解の視座から捉え直し,言語活動を活発化させることによって,児童 の自己表現力の向上と他者理解の深まりが図られ,異文化コミュニケーション能力の向上に寄与する と推察し成果を検証する。新年度開始後4月から5月にかけて,小規模と中・大規模の公立小学校2校 において,Unit 1の単元に関連づけ,名前の由来や名づけ文化に関するSmall Talkを含めた授業実践研 究を行い,授業観察記録,児童の振り返りシート,授業実践者(JTE・ALT)の授業振り返りジャーナ ル等の分析および授業者との協議に基づき,成果と課題について検討した。その結果,名前に関する Small Talk と言語活動の充実化を図ることによって,学習者側からは,外国語で他者とやり取りを行 う際,お互いの名前の由来やその背景ある文化を英語を介して理解することにより,コミュニケーシ ョンが豊かになる効果が確認された。授業実践者からは,名前には親の願いや文化的意味,家族の伝 統等が包含されており,異文化理解の学習素材として興味深く,異文化コミュニケーションのツール としての価値が認められた。異なる学校規模でも,名前に関するやり取りを文化的多様性の面から工 夫すれば,児童の異文化コミュニケーション能力を涵養する手立てになる可能性が示唆される。

石森 広美(北海道教育大学)

キーワード:名前,Small Talk,異文化コミュニケーション

要旨

本実践研究は小学校 5,6 年生の年度初めの英語授業における自己紹介の言語活動に焦点を当て, 自己表現と他者理解の側面から,名前を起点とした Small Talk の意義と可能性を探究することである。名前を含む自己紹介を異文化理解の視座から捉え直し,言語活動を活発化させることによって,児童 の自己表現力の向上と他者理解の深まりが図られ,異文化コミュニケーション能力の向上に寄与する と推察し成果を検証する。新年度開始後4 月から5 月にかけて,小規模と中・大規模の公立小学校2 校 において,Unit 1 の単元に関連づけ,名前の由来や名づけ文化に関するSmall Talk を含めた授業実践研 究を行い,授業観察記録,児童の振り返りシート,授業実践者(JTE・ALT)の授業振り返りジャーナ ル等の分析および授業者との協議に基づき,成果と課題について検討した。その結果,名前に関する Small Talk と言語活動の充実化を図ることによって,学習者側からは,外国語で他者とやり取りを行 う際,お互いの名前の由来やその背景ある文化を英語を介して理解することにより,コミュニケーシ ョンが豊かになる効果が確認された。授業実践者からは,名前には親の願いや文化的意味,家族の伝 統等が包含されており,異文化理解の学習素材として興味深く,異文化コミュニケーションのツール としての価値が認められた。異なる学校規模でも,名前に関するやり取りを文化的多様性の面から工 夫すれば,児童の異文化コミュニケーション能力を涵養する手立てになる可能性が示唆される。

  1.    本研究の目的と背景
    1.    課題意識と目的

本実践研究の目的は,小学校 5,6 年生の英語授業における「名前」を含む自己紹介の言語活動に焦点を当て,教科書の単元に絡めて異文化理解の視点を取り入れた Small Talk を構想し,それを活用した授業実践からその可能性や意義を明らかにすることである。

異なる文化背景をもつ他者との共生の重要性が高まる中,外国語で意思疎通を図る際に不可欠となる異文化コミュニケーション能力の育成は急務とされており(Barany, 2011; Gashi, 2021; 鳥飼, 2018 ほか),初等教育においても同能力の育成を意識する必要性が指摘されている(Byram, 2021)。多様な他者と出会いコミュニケーションを行う際,互いの名前を伝え合うことは自然な営みである。自己紹介に不可欠な「名前」は個々のアイデンティティを表し,異文化コミュにケーションにおいても重要な要素の一つである(鳥飼, 2021)。また,アイデンティティや自己認識は,多様性や他者尊重の土

台形成に関係し,異文化コミュニケーションにも影響する要素である(Oxfam, 2015)。

年度初めの単元には,名前を含む自己紹介に関する表現が配置されている。例えば 本実践研究対 象校における使用教科書(NEW HORIZON Elementary)では,5 年生では “I’m….”,“ My name is….”, “How do you spell your name? ” 等,名前とその綴りに関する表現が,6 年生では “I like….”,“My treasure is….” 等,好きなものや宝物等を含めた自己紹介の表現が Unit1で取り上げられている(東京書籍, 2024)。川村(2020)は,Small Talk は英語コミュニケーション能力の育成に有用であるとした上で,年度初めの授業が自己紹介の表現から始まるのは,クラス替え直後の1学期の最初にふさわしい活動 だと評する。しかしながら,1 学年 1 クラスしか存在せず,6 年間を通してクラス替えがない小規模 校においては,相手の名前を聞く必然性はなく,“What’s your name? ”と尋ね合うやり取りは,現実的 なコミュニケーションの文脈から乖離している。目的・場面等をより明確化しない限り形式的なやり 取りに陥ってしまい,本当の気持ちを伝え合う言語活動からは遠ざかってしまう。

文部科学省(2015)は,少子化の継続的進行を背景に,学校の小規模化による教育上の諸課題のさらなる顕在化を懸念している。特に地方では過疎化の影響もあり,町村内に小・中学校各 1 校という自治体が増加している(日本教育新聞, 2020)。この現状を鑑みると,英語による自己紹介がもたらす新しい価値の創造が求められる。名前を異文化の視点で捉え直すことにより,児童の外国語における見方・考え方が充実し,自己紹介に関する年度初めの言語活動をより豊かで意義のあるものに変換できるのではないか。以上を踏まえ本研究では,児童の自己表現力と他者理解の促進,さらに異文化コミュニケーション能力の涵養を射程に入れ,「名前」に関するSmall Talk の有効性を議論する。

Small Talk と異文化コミュニケーション:先行研究を踏まえて

本実践研究では,「話すこと[やり取り]」の活動の一つとして提唱される Small Talk に注目する。これは「あるテーマのもと,指導者のまとまった話を聞いたり,ペアで自分の考えや気持ちを伝え合 ったりする」(文部科学省,2017a, p.130)活動であり,単なる練習や繰り返しとは異なる,真正な情 報の授受や自分の気持ちの伝達,また必然性のあるやり取りを行うものである。Small Talk の成立に は,対話に必要な基本的表現の一定程度の定着が要件となるが,それに加えて,児童が「話したい」

「伝えたい」と感じる目的や場面等の設定が重要である。

小中高を通した 10 年間の外国語教育を展望すると,これを貫く目標は「コミュニケーション能力」

の育成であることは明白である(文部科学省, 2014, 2017b)。急速に進展するグローバル化は,世界 中の多様な文化背景をもつ人々がつながる機会を飛躍的に増大させていることから,日本において児 童生徒が身に付けるべきコミュニケーション能力は,異文化コミュニケーションの文脈で考えること が妥当である(石森・阿部・東, 2024)異文化コミュニケーションは「様々な点で異なる人々とのあ いだのコミュニケーションが含まれ,自分とは異なる相手と意思疎通し合う営み」(石森, 2022, p.263)であり,異文化は他国との差異にのみ焦点化するのではなく共通性にも目を向け,また国内の文化的 多様性も包摂する幅広い概念である(Jackson, 2020;森茂,2022;山本ほか,2022)。この考えを適 用すれば,学校や教室など身近な場所にも「異」は存在し,多様な考えや価値観をもつ人々との共 存・共生に必須となる異文化コミュニケーション能力は,日常生活においても大切な力として理解で きる。Small Talk は日本語から英語モードへの変換にも有効であるが(白畑ほか, 2019),これを異文 化コミュニケーションの入口として位置づけ,帯活動として継続的に展開できると考えた。

また,言語と文化の関係は相互依存的であり,外国語教育において文化を切り離すことはできな い(Brown, 2000; Han & Zhang, 2020)。文化の中核には,アイデンティティや価値観,信条等が定位 し(Liu, Volčič & Gallois, 2019),名前は社会的関係の中で自他を区別させ,自己の固有性を意識させ る(上田, 2017)。名前は,アイデンティティと自己表現にも深く関わり,文化的側面も包むもので ある。したがって名前を通したやり取りは,異文化コミュニケーションの導入としても有効であると 推察される。そこで本実践研究では,Small Talk を手がかりとし,年度初めの名前を含む自己紹介の やり取りを,形式的な応答に終わらせず,自分の思いを伝えたり,相手の思いやメッセージを受け取 ったりしながら行う異文化コミュニケーションの育成に向けた初期段階の言語活動として位置づける。

  1. 2.   実践研究概要
    1.    目的

小学校高学年の年度初めの英語科の授業において,自己紹介に関する単元を異文化コミュニケーションの視点から再考し,「名前」を起点とした Small Talk を通して,やり取りにおける児童の自己表現を促し他者理解を深める授業を提案し,実践的示唆を得る。当該授業を公立小学校 2 校の 5,6年生を対象に実践し,学習者と授業者の振り返りを通じて事象を解釈し,その教育的効果や意義を検証する。本実践研究では以下の研究課題(RQ)を設定する。(1)異文化理解の要素を取り入れた名前に関する Small Talk は児童の異文化への関心を喚起するか。(2)自分の名前の由来を伝えたり,相手の名前の意味を知ったりする言語活動によって,自己表現力と他者理解への認識が深まるか。(3) 名前を異文化の視点で捉えたSmall Talk と言語活動は,異文化コミュニケーション能力の涵養に有効か。

実践校

本実践研究は,北海道・道南地域の公立小学校 A 校と宮城県黒川郡の公立小学校 B 校の 5,6 年生 を対象とする(表1)。地方では人口減少や都市部への人口流出によって過疎化やへき地化が進行し,学校の統廃合が進んでいる。この現象下にある学校例として,A 校を取り上げる。一方で,都市に隣 接し,団地が形成されていることで人口を維持している地方も存在する。B 校はこのような地域に位 置し,安定した児童数を保持している。このように,学校の状況は地域の人口動態や都市との関係性 に依存するが,地方における教育環境の多様性や特色を踏まえ,2 校における実践研究を行う。

表1 実践校の概要

所在地

全学級数(児童数)

5,6 年生 学級数(児童数)

学校規模 2

英語授業者・ALT の出身国

A 小学校

(A 校)

北海道道南

9 学級(内特別支援学級 3) (109 人)

5 年生 1 クラス(19 人)

6 年生1クラス(14 人)

小規模

JTE:専科教員 ALT:英国(5 年)

アメリカ合衆国(6 年)

B 小学校

(B 校)

宮城県黒川郡

27学級(内特別支援学級6)(636人)

5 年生 4 クラス(126 人)

6 年生 4 クラス(121 人)

中・大規模

JTE:専科教員 ALT:アメリカ合衆国

なお,本研究は児童の正課授業(単元)の範囲内での実施であり,個人情報は適切に保護・管理 されている上,両校の管理職と授業実践者および関係児童・保護者から本研究に対しての理解と協力,

調査許可を得ている。また,関係者に草稿の確認を依頼し,個人名を含め公表に同意を得ている 1。

対象

実践研究対象は,道南の公立 A 小学校第 5・6 学年(各1クラス)および宮城県の公立 B 小学校第 5・6 学年(各4クラス)の児童である。A校では1クラスの在籍児童が20 名未満であるのに対し,B校では30 から32 名である。両校ともにALT が常駐しており,基本的に毎次の授業は英語専科教員と ALT との TT で行われる。A 校においては,英国出身とアメリカ合衆国(以下,アメリカ)出身の二人の ALT が交代で勤務し,前者は 5 年生,後者が 6 年生を担当している。両名は日本語が堪能であり,授業中日本語で話す場面が時折みられる。B校においては,アメリカ出身のALT がJTE と共に全授業を TT で行っており,ALT は児童の前で日本語を使用することはない。A 校・B 校ともに,学級担任は英語の授業中,支援の必要な児童のサポートをするなどして教室で一緒に過ごしている。

方法と手順

研究方法は,対象が小規模なサンプルサイズであること,現象の理解や文脈的な意味の探究に主眼を置いているため,質的研究法を採用する。実践研究は,以下の5つの手順で行う。

(1)異文化コミュニケーションの視点から名前についてのSmall Talk のアイディアを提案

(2)(1)に基づき,JTE とALT との意見交換・研究協議(対面とオンラインを併用)

(3)(2)に基づき,JTE がALT と協働してSmall Talk と授業案・ワークシートを作成

(4)(3)に基づき,Small Talk を活かした授業を実践

(5)(4)の後,学習者(児童)と授業者(JTE・ALT)の振り返りの分析(筆者)および研究協議本研究では Small Talk に加え,授業観察,児童の振り返り,授業者の振り返りジャーナル等のデー

タを収集・分析し,これに基づき授業者との協議を含めて総合的に検討した(表 2)。両学年ともに教科書 Unit1の単元内で扱い(表 3),実践時期は 2024 年 4 月下旬から 5 月上旬である。授業観察は教室の後方ドア付近にて,非参与型直接観察法の形で実施した。児童の振り返りワークシートと授業者の振り返りジャーナルは, JTE から個人情報を保護した上で研究関連部分を共有していただいた。質的データから意味を体系化するため,ワークシートの記述内容をオープンコーディングによって整理しカテゴリー化を行い(Flick, 2018),関係性を分析し解釈を行った。

表 2 データの具体

A 校 B 校

・JTE, ALT との協議:授業前 対面 1

回,授業後対面 2 回

・児童の振り返り:言語活動後, 5, 6

年生各1回ワークシート提出

・授業者JTEとALTの振り返りジャーナル:単元終了後提出

※名前に関するSmall Talk各学年3回

・JTE, ALT との協議:授業前対面 1 回,授業後 対面1回, オンライン1回

・児童の振り返り:5 年生は Unit 1 内で 1 枚のワークシートに4 回に分けて一言振り返りを記入し単元終了後提出。6 年生はコメントをデジタル保存しているためワークシート提出(共有)はなし,代わりに指導者の視点から見た児童の学びの様子を報告(オンライン協議)。

・授業者 JTE と ALT の振り返りジャーナル:単元終了後提出

※名前に関する Small Talk 各学年 4 回

単元内容

5, 6 年生ともに,Unit1の単元目標には「お互いのことをよく知るために」と記されている。また,評価規準例「思考・判断・表現」の「主体的に取り組む態度」の領域では「自分のことを伝え,相手 のことをよく知るために」(5 年生)・「自分のことを伝えるために」(6 年生) と,「話すこと」の

目標が示されている(東京書籍, 2024)。自分の名前の意味や由来等を相手に伝え,また相手の名前 の背景等を知ることによって他者理解が深まり,単元目標にアプローチできると予測される。さらに は,自分の名前の意味を英語でどのように表現するかを思考したり,名づけの方法や名前の成り立ち を文化的側面から考察したり,また ALT や地域に住む外国人の名前から文化的背景を掘り下げれば,異文化理解学習にも発展させることができると考える。

表 3 単元との関連

学年・単元

5 年生 Unit 1 Hello Friends!

6 年生 Unit 1 This is me!

単元目標

(指導書より)

*下線部は筆者

お互いのことをよく知るために,名前やつづり,好きな物・ことについて,聞き取ったり伝え合ったりすることができる。また,アルファベッ

トの大文字の形と名前がわかる。

お互いのことをよく知るために,好きなものや宝物などについて,聞き取ったり紹介したりすることができる。また,好きな物や宝物などについて,例文を読んだり,そ

れを参考に書いたりすることができる。

本実践研究授業のねらい

(JTE との協議よ

り)

名前を紹介し合う中で,名前の由来も伝え合い,もっと自分のことを知ってもらい,相手のことを知ろう,

というねらい(自己理解・他者理解)

自分の好きなものや宝物を述べる前に,自分の名前の意味も伝え,もっと自分のことを知ってもらおう,相手のことを知ろう,

というねらい(自己理解・他者理解)

主な表現 I’m…. / How do you spell your name? What subject [ sport / animal / food ]do you like? Nice to meet you. See you.

What …do you like? / I like….

What is your treasure? / My treasure is…. I’m from …. I’m good at….

異文化コミュニケーションの視

点(筆者提案・授業者と協議確認)

自分の名前を大切に思う気持ちを育み(自己肯定感・自己理解),また相手の名前を通して相手を理解し尊重する気持ちを育てる(他者理解)。名前には家族の願いや文化などが反映されており,意味が込められている(異文化理解・他者理解)→

「名前」を通した自己表現・他者理解は異文化コミュニケーションツールになる

  1. 3.   実践
    1.    A 校でのSmall Talk と授業実践

表 4 は,A 校 5 年生の授業での名前に関するSmall Talk である(単元第 6 時 Enjoy Communication)。 ALT がJTE に名前の意味を尋ね,JTE が説明をする場面である。ALT は,名字(姓)に昔の職業が反映されていることを簡単に解説した。その後,児童同士が同様のやり取りを行った(表5・図1)3。表 4 A 校 5 年生 Small Talk

表 5 児童同士の Small Talk の例

ALT :Hello, I’m Thomas.

児童 1:Hello!I’m Yota.

ALT :How do you spell your name?

児童 1:Y-O-T-A, Yota.

ALT :What does your name mean?児童 1: Yo (陽) is Sun in English.

太陽のように明るい子になってほしい。

ALT : Oh, I see. Nice name!

児童 2:Hello!I’m Natsuka.

児童 3:Hello!I’m Mei.

児童 2:How do you spell your name?児童 3:N-A-T-S-U-K-A, Natsuka. 児童 2:What does it mean?

児童 3:Natsu (夏) is summer, Ka (花) is flower.

夏に生まれたから。

My mother like(s) flower(s).

(表 4,5 筆者の授業観察記録より)

図1 名前と綴り,名前の由来を通した児童間のやり取り(5 年生)

6 年生のUnit1においても,JTE とALT の名前の由来を紹介し合うSmall Talk の後,好きなものや宝物を紹介し合う表現を使用し,授業が展開された。ALT はフルネームを板書し,普段は使用しない自身のミドルネームを紹介した。そして自分の名前(Henry)に特に親の願いなどはなく,一般的な名前であると述べた上で,ド

イツ語由来であり「家の支配者」という意味があることを説明した。さらにA校では,英語文化圏と は異なる文化背景をもつエジプト出身のゲストティーチャー(以下 GT)が 5,6 年生の授業に参加し た(図 2)4。Small Talk(表 6)では,児童の理解を助成するためワークシート(図 3)が用いられた。

表 6 ゲストティーチャー(GT) との名前の Small Talk

(筆者の授業観察記録より)

図 2 エジプト出身の GT と JTE による授業 の様子 図 3 GT が配付したワークシート

B 校でのSmall Talk と授業実践

B 校 JTE は,名前を軸にした単元の学習を児童や学校の実態に合わせ,次のようにゴールを設定し,児童と共有した。

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[5年生]

単元の導入で「もし世界の人に出会ったら,はじめに何を伝えたい?」と問い掛けた。「あいさつをしたい」「名前を伝えたい」等と答える児童が多かった。「知って欲しいから」「相手の名前も知りたいから」「まずは自己紹介だから」等の理由をつぶやいていた。そこから単元の学習内容に触れ,

「新しいクラスメイトのことをお互いにもっと良く知るために,自分のことを伝えよう」という単元のゴールを共有した。

[6年生]

5月に行われる運動会では,学校の伝統として6年生が名前の一文字を背負ってソーラン節を踊る。

「自分の名前に誇りをもってほしい」「自信をもって踊ってほしい」「保護者にも気持ちを伝えてほしい」という思いを込めて学習を計画した。

<ねらい>運動会のソーランで背負う一文字を決めるために,名前に込められたメッセージを考え,他者に伝えよう。

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(授業者の振り返りジャーナルより)

B 校の JTE は,5 年生に「もし世界の人に出会ったら」という状況をイメージさせ,挨拶をしたり,名前を伝えたり自己紹介をしたりすることの必要性を,児童側から引き出したことにより,学習動機 を高めている。また,6 年生においては,児童にとって重要な学校行事と関連づけ,単元における名 前の学習を意味づけている点が注目される。

B 校における授業でのSmall Talk は以下の通りである。Small Talk は学習の段階に応じて数種類が用意され,表7 は単元の導入時のもの,表8 はその後の展開である。Small Talkの最中に,自分の名前の意味や由来を知っているかJTE が質問したところ,答えられた児童は全体の 2 割程度であり,名前の由来等を「知らない」「忘れた」等の反応が大半であったことから,保護者に聞くなどして「名前に込められたメッセージをリサーチする」課題を児童に与えることとなった(事後の研究協議より)。表 7 B 校 Small Talk(導入)

表 8 B 校 Small Talk(展開)

表 9 B 校 Small Talk( 異文化理解)

(表 7, 8, 9 指導案および授業者の振り返りジャーナルより)

その後,リサーチ結果を踏まえ,英語によるやり取りに向けてコミュニケーションカード等を準備させ,児童同士のコミュニケーション活動につなげている。また,ALT の生の声を活用した Small Talk(表 9)は,異文化理解を促すツールとして着目される。JTE は Small Talk について,「5 年生は単元で扱う表現 “How do you spell your name? ” から名前の意味や由来へとうまくつながった。6 年生は運動会でソーラン節を踊る際に着用するはっぴに刻む一文字を選ぶことと関連づけて名前の意味を理解させ,書くことの活動へとつなげた。両学年ともに,名前を通したやり取りを通じて目指す言語活動を実践し,充実させることができた」と振り返る(事後の研究協議より)。

  1. 4.   成果と考察
    1.    A 校 児童の反応

以下では児童の反応と授業者の振り返りの分析から,本授業実践の成果について順次考察する。A校では JTE が独自に作成した以下のワークシートを活用し,言語活動および振り返りが行われた。

図 4 名前に関するワークシート例(5 年生) 図 5 振り返りシート例(6 年生)

児童は初めて打ち明けられる ALT の名前の由来に,興味深く耳を傾ける様子がみられ、また,エジプトの GT の名前の長さと名づけには,驚嘆の声があがった(授業観察より)。自分の名前の意味を伝え合う際には,児童はワークシートを基に活動に臨んだ。振り返りの内容分析をすると,5 年生

(14 名回答,一例は図 4)では,「みんなの名前にはいろんな意味があって楽しかった」「みんなの 名前の由来がよかった」のように,他者理解や多様性への肯定的姿勢を示しているものが 4 件,「ア ラビア語の名前がおもしろい/びっくりした」「いろんな言語を知りたい」等,異文化への好奇心や 興味を示す例が 9 件,「楽しかった」と名前に関する活動の楽しさに言及した例が 4 件あった(複数 該当有)。6 年生(13 名回答)では,全員が「ミドルネームは何のためにあるのか気になった」「名 前のつけ方にびっくりした」「もっといろんな国のことをしりたいと思った」等,何らかの異文化へ の好奇心や興味を示す記述をしており,名前を通して異文化への気づきが確認された(一例は図 5)。

B 校 児童の反応

5 年生では表9 のSmall Talk の後,自分の名前と由来,好きな教科等(裏面)を書いたカード(一例 は図 6)を用いながらクラス内交流が実施された。名前の意味や由来,スペル,好きな教科等を伝え 合い,付箋にコメントを記入して相手に渡すコミュニケーション活動が展開された(単元第 5-6 時)。

図 6 コミュニケーション活動に使われた名前のカード

毎時の授業後に 5 年生が取り組む一言振り返りシートのうち,当該

授業への記述のあった 116 名分の記述を意味のある単位やフレーズに 分割し,コードを付して整理した。複数回確認した後,それらを基に カテゴリーを生出し(複数該当有),まとめたのが表 10 である。例え ば「みんなの名前の由来や好きなものを知れて楽しかった」は「他者 理解への肯定的姿勢」と「コミュニケーションの楽しさ」に該当する。

「他者理解への肯定的姿勢」には70 名(60.3%, 小数点第二位四捨五入,

以下同様),「異文化に対する好奇心・興味関心」には 41 名

(35.3%),「コミュニケーションの楽しさ」には 39 名(33.6%),

「自己理解・自己表現の喜び」には 37 名(31.9%),「自分自身と他

者との共通点や相違点の認識」には 20 名(17.2%)が言及しているという結果であった。

表 10 名前のやり取りによる 5 年生児童の気づき

カテゴリー

記述例

他者理解への肯定的姿勢

(60.3%)

「みんなの名前の由来や好きなことが知れて楽しかった」

「友だちの好きなことがわかった」

異文化に対する好奇心・興味関心(35.3%)

「外国人にはいろいろな名前がついてるのはしっていたけどお父さんやお母さんの名前までついているとはしらなかった」

「マーク先生の名前や奥さんの名前にびっくりした」

「名前にはいろんなメッセージがあることがわかっておもしろかった」

コミュニケーションの楽し

さ(33.6%)

「みんなのいろんなことをしって仲良くなれてうれしかった」

「自分のことを伝えて友だちのことも知れて楽しかった」

自己理解・自己表現の喜び

(31.9%)

「自分の名前の意味を伝えるのがうれしかった」

「自分のことをしってもらえた」

「自分のことや好きなことを見つけていくのが楽しかった」

自分自身と他者との共通点

や相違点の認識(17.2%)

「好きな教科や好きなことが同じ人がいてうれしかった」

「クラスで人気がある教科と自分の好きな教科がちがっていた」

図 7 児童の一言振り返りの実例

児童は級友の名前の由来や好きなことを知ったり,自分のことを他者に伝えたりする楽しさや,お互いについて理解を深めていくコミュニケーションの意義を実感している(一例は図 7・表 10)。また,異文化理解の視点からの名前に関する Small Talk が児童の視野を広げ,異文化に対する好奇心や興味関心を喚起し,他者理解への肯定的姿勢を醸成する契機となり,コミュニケーションを豊かにし得ることがわかる。加えて,言語活動を通した自分自身と他者との共通点や相違点の認識は,異文化コミュニケーション能力の基礎形成に資すると考えられる。

次に 6 年生の児童の反応について,B 校 JTE の振り返りジャーナルから探索する。6 年生おいても一連の Small Talk を経て児童同士のやり取りを行った結果,他者理解への肯定的姿勢,自己理解・自己表現,自己肯定感に関連する反応が確認される(表 11)。

表 11 JTE(授業者)の視点から見た 6 年生児童の反応

カテゴリー 児童の反応
他者理解への肯定的姿勢 友達のことをもっと知ることができた
自己理解・自己肯定感 自分の名前のメッセージが嬉しかった
自己理解・他者理解 名前はたいせつなものだと感じた
異文化に対する好奇心・興味関心

・世界の人たちも名前にメッセージが込められているのかな?

・(ALT’s wife である)ロシオさんには家族の名前,家族の想いがリレーされているようだ

・他の国はどんな名前があるんだろう?

コミュニケーションの楽しさ 相手とのやり取りが楽しかった
英語表現の難しさ・もどかしさ 名前に込められたメッセージを伝えるのが難しかった

外国語での学びを学校生活に活か

そうとする気持ち

自分の名前の「〇」の一文字をソーランで背負いたい

(授業者の振り返りジャーナルより。カテゴリー化は筆者による)

また,5 年生同様コミュニケーションの楽しさについても見取ることができる。加えて,世界の 人々や他国の名前等にも関心が向き,異文化への興味関心の高揚も確認される。他方,既習の英語表 現の限界を考慮すると,名前の由来やメッセージを英語で伝えることは容易ではなく,もどかしさを 感じた児童もいる。本当の気持ちを伝え合うことが目指される言語活動において,伝えきれない悔し さやもどかしさは必ずしも悲観の対象ではなく,次なる学習への原動力ともなる。さらに,「自分の 名前の「〇」の一文字をソーランで背負いたい」という反応にも注目したい。5 月の運動会において,最上級学年である 6 年生は「一文字」を描いたオリジナルはっぴを着用してソーラン節を踊ることが 学校の伝統になっている(2024 年度の実際の様子は後掲図 8)。これまでは深く思考することなく氏 名からあるいは好きな字を一文字選んでいたが,今年度は名前の由来や意味を含めた言語活動を実施 したことにより,英語の授業中に「ソーランで背負う文字を決めた」との発言が聞かれるなど,英語 の授業での学びを学校生活に活かそうとする気持ちが顕現したという(事後の研究協議より)。

A 校 授業者の振り返り

A 校の JTE は,当該授業について次のように振り返っている(下線部は筆者,以下同様)。

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自分の名前には親の願いが込められていることや,縁のある人の名や字をもらっていることに改めて

(もしくは初めて)気づき,その喜びを名前に乗せて,できるだけ英語で表現しようとすることによって,自己紹介がより豊かなものとなると思う。児童がこの自己紹介を覚えていて,大人になって初対面の外国 人に自分の名前の由来を伝える様子は,なんと素敵に映るだろう。自己紹介が日本語や文化を知ってもら う一場面になるだろう。名前や名づけ一つを取ってみても,世界には実にいろいろな名前の付け方がある ということに気づく。エジプト出身のゲストティーチャーが,フルネームを紹介した時の児童の驚きの様 子は,まさに異文化を感じた瞬間だった。ALT が自分の名前を紹介した時にも,特に願いのようなものは なくて,親しみやすいとか,おじいちゃんの名前だったとか,よく使われる名前だからといった感じで名 づけられていることにも驚いていた。さらに,他にも世界にはどんな名前のつけ方があるのだろうという 探究に繋がったり,どうして男性の名前ばかりが継承されていくのだろうと習慣や宗教の理解に繋がった り,国際理解の入り口に立つ機会にもなると感じる。

課題としては,自分の名前の由来がはっきりしないことで,そもそもの動機づけが乏しくなってしまう児童がいたこと,名前の由来を知っていても英語で表現するにはまだ難しいこと,が挙げられる。

(A校JTE の振り返りジャーナルより)

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以上の省察から,名前を通した Small Talk は,①自分や日本語・日本文化を知ってもらう一場面になり得ること(自己表現・発信),②名前の由来や名づけについての洞察は国際理解・異文化理解の糸口にもなり得ること,の二点の意義が確認される。また,教科横断的な学習や探究学習への発展の可能性も示唆される。提起された課題については,後に論じる。

ALT は,名前に関するSmall Talk を取り入れた授業について,それぞれ次のように振り返る。

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5 年生担当の ALT(英国出身)

Utilising the origins of names to conduct small talk is a fantastic way to facilitate an intercommunicative experience among students. It produces a deeper discussion that encourages each student to learn about the social impact of a name in reference to the culture that surrounds it—something that generic small talk would not otherwise accomplish. It's a simple yet effective way of enabling students to talk about something of great interest while also facilitating a deeper understanding of each other in the process.

6 年生担当の ALT(アメリカ出身)

I think that names are a great way to start conversations in intercultural situations, such as when Japanese students are interacting with foreign people. It's something that anyone can talk about because it's their own name, which also makes it more interesting because we all like to talk about ourselves. It's also an easy topic for people learning English to talk about and personal in nature, adding intrigue. Even though they're fun and easy to talk about, names also carry a huge amount of cultural information. It's great because this allows kids to understand otherwise complex cultural concepts through the understandable lens of names. (中略) I enjoy linguistic and cultural comparisons like that.

Overall, this activity allowed us to talk about some interesting cultural differences with real-life examples while also

learning more about each other. I think it was really interesting.

(A校 ALT の振り返りジャーナルより)

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A 校の 2 名のALT は,相互理解,異文化理解の観点から,名前についてのSmall Talk と言語活動に 対して肯定的評価を示している。名前の由来を利用した Small Talk は,児童間のお互いの理解を深め 交流を促進する良好な方法であるという点,名前について話すことは文化について学ぶ機会を提供し,特に日本の児童生徒が外国の人々と交流する際に名前を話題にする有効性がある点,自分の名前は最 も身近な話題であることから誰にとっても話しやすく興味を引く点,名前には様々な文化情報が含ま れており異文化理解にも有益である点が示されている。

4.4. B 校授業者の振り返り

次に,B 校のJTE による授業実践後の振り返りジャーナルから,考察を深める。

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新しいクラスでも名前はすでに知っていることが多いが,名前に込められたメッセージを互いに知っている児童は少なく,総じて活動を楽しむ様子がみられた。Small Talk 中に即座に名前の由来や意味を答えられる児童が少ないと判断されたため「名前に込められたメッセージリサーチ」を課したが,その際に家の人に想いや由来を書いてもらう児童もおり,学習を通して家族とのつながりを感じている児童もいた。活動を通して「名前って大切だね」という認識は皆に共有されているようであった。

例年,6年生にとっては Unit 1 の自己紹介の単元は少し簡単すぎる印象だが,名前に込められたメッセ ージを伝え合う活動をプラスしたことでレベルアップし,児童のコミュニケーションへの意欲が高まった。また互いに新たな発見があり,やり取りも意欲的になった。また,6年生は名前を通した言語活動の先に,

「ソーランで背負う一文字を決定する」と設定したため,漢字一文字一文字に注目し,自己表現をより意 識していたように思う。しかし,名前のリサーチを通して漢字一文字一文字ではなく名前全体にメッセー ジが込められていることを知った児童も多く,「どっちの字を伝えればいいか」という質問が多くあった。

(中略)発達段階を考慮すると,恥ずかしがったりして自分の名前の意味や由来を他者と共有したくないケースもみられたが,行事と関連づけたり担任と協働したりしたことで意義を見出すことができ,意味のある言語活動になった。

異文化理解の面では,Small Talk の中に入れて紹介した,ALT の妻(ペルー出身)の名前の由来に興味を示す児童が多かった。驚きの感情が強い印象である。名前が「長い」ことへの驚きもあったが,特に自分の名前に家族の名前が入っていることに驚いており,児童の異文化への強い興味関心を感じた。

名前に込められたメッセージを英語で伝えることは小学校段階では難しいため,「〇 is 謙虚でおもいやりがある」「△ is 夏のように明るく生きていって欲しい」など日本語混じりのやり取りとした。これが小学校英語としてよいのかどうか迷った。

(B 校JTE の振り返りジャーナルより)

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上記の報告から,名前の由来や意味を含めた自己紹介の Small Talk とそれを機に発展した児童同士の言語活動は,相手の名前の背景を知ることにより,年度初めの Unit1の単元を他者理解を深める好機に転換できたことがわかる。また,名前の由来を調べるリサーチを課すことにより家族とのコミュニケーションが生まれたり,自己理解が深化したりする成果が示されている。好きなものや大切なものを紹介し合うやり取りに付加価値をつけ,とりわけ 6 年生に関しては学校行事を意識させたことにより,児童の興味関心及び学習意欲を上昇させている点は注目すべきである。異文化の視点についても,目の前のALT が提供する生きた情報が児童の視野拡大に寄与していることが読み取れる。

他方,英語表現という観点では,日本語と英語の混在表現を認めざるを得ない実態や迷いも吐露されている。活動の目的が年度初めの単元における「お互いを知る」ことである場合,混在表現の許容によって児童が安心して活動に参加できる利点がある。児童の英語力が不十分である場合,目的や状況,児童のニーズに応じて,児童が英語を学ぶ上での楽しさや達成感を感じられるよう,段階的に英語を増やす等,柔軟な対応や持続的な支援をする必要があるだろう。

B 校の授業担当ALT は,当該授業を学年ごとに次のように振り返る。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――—

[5 年生]

  •   

    (The lesson provided)An opportunity for students to learn about their own names and understand their friends on a deeper level. While names will usually have meanings, there are names that have seemingly no meaning or just as function (“Jr.” or “the 2nd” for example).

  •   

    An enjoyable unit for both teachers and students.

  •   

    The understanding that their names (usually in kanji) will mean little to others around the world who can't read kanji. What is important is the meanings of their names (possibly their personality) and being able to explain its origin.

[6 年生]

  •   

    The challenge is to choose one kanji and explain why this kanji is special to them. In addition to choosing a representative kanji, we will think about a simple self-introduction that includes the things we like.

  •   

    Easy for students to do at all levels (basic and advanced). Students will research the things they like and learn how to

express the things they like in English. (中略)It’s also fun to find out what things people find as personal treasures.

(B 校 ALT の振り返りジャーナルより)

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図 8 自分の名前から 1 文字を取ったオリジナルはっぴを着用する児童(B 校提供)

上記からは,名前の意味や由来を通した自己紹介は,自己理解と他者理解の双方に有効である諸点が示される。名前の意味や由来を伝え合う活動は,どの学習者にとっても取り組みやすく,教員にとっても楽しい活動であると評した上で,異文化コミュニケーションの視座から漢字を使用する文化の独自性に着目し,世界の人々に自分の名前の由来を説明できる

ことの重要性を指摘している。6 年生においては,ソーラン節を踊る際に背負う一文字(漢字)を選 んだ理由や字の意味(図 8 参照),またそれぞれの大切なものを伝え合うことの意義に言及している。

以上,A 校,B 校の 5,6 年生児童の反応に加え,5 名の授業担当者による省察を総合的に考察すれば,本実践研究の成果を以下のようにまとめることができる。

年度初めの Unit1の自己紹介において,名前の由来を含めた Small Talk とそれを起点としたやり取りは,自己理解と他者理解を深め,コミュニケーションを行う際の自己表現の内容を豊かにするとともに,名前しか知らなかった相手をより深く理解することにつながる可能性が示唆された。これにより,自己紹介に関するやり取りを,自他の発見を伴うより意義深く楽しい言語活動に昇華できるだろう。全員が保有する「自分」という存在の象徴でもある「名前」を,その背景にある由来や意味を理解することで価値づけをし,自己紹介の際に英語を用いて相手に伝えるというタスクを通して,名前を含む自己紹介を異文化コミュニケーションの視点から捉え直し,コミュニケーションツールとして活用することに寄与し得るのが,最初に行うデモンストレーションを兼ねた Small Talk であったと考察する。JTE とALT が単元で使わせたい英語表現を織り交ぜながら,自分の名前の意味や由来を紹介し合い,また児童にも問いかけながらやり取りを展開し,その後の言語活動への関心を引き付けたと推察される。

名前は個人のアイデンティティを象徴し,文化を投影する。年度初めの英語の授業において,名前を通じて自己認識と他者理解を深めることは,教室内における多様性の尊重や他者理解の精神の育成につながる。普段,名前の由来を尋ね合う機会は少ないため,これは英語授業の単元におけるやり取りにより得られる貴重な機会である。また,名前をグローバルな視点から捉えることで,名前の由来や名づけにおける特徴を見出したり,児童の異文化への興味が喚起されたりし,自文化との比較考量が促されるだろう。このように,名前についてのやり取りは,異文化コミュニケーションの観点からも有益である点が授業担当者から共通して指摘されている。さらにはB 校 6 年生の事例のように,学校行事との連携による横断的学習への発展可能性も見出すことができる。

  1. 5.   総括
    1.    まとめと実践への示唆

本実践研究は,名前の由来を含む自己紹介の言語活動に焦点を当て,自己表現と他者理解の側面から異文化理解の視点を取り入れた Small Talk を通した授業実践研究を行い,その可能性や意義を探究するものであった。上記の検討を総括すると,規模の異なるA 校,B 校両校において,自己紹介に関する言語活動の際,名前を活用することにより自他の理解が深まり,異文化コミュニケーション能力の涵養に資する可能性が明らかとなった。以下,設定した RQ に基づき,結論を述べる。

(1) 異文化理解の要素を取り入れた名前に関するSmall Talk は児童の異文化への関心を喚起するか, については,身近な存在である ALT あるいは地域に住む外国人をゲストティーチャーに迎えるなど,異なる言語文化圏における名前の意味や由来を Small Talk を通して紹介することは,新たな文化との 邂逅となって児童の知的好奇心を刺激し得る。異なる名前への理解を深めることは,異文化への興味 や気づきを生起させることにつながる。(2) 自分の名前の由来を伝えたり,相手の名前の意味を知っ たりする言語活動によって,自己表現力と他者理解への認識が深まるか,については,児童の振り返 りから,名前を起点とした言語活動は,自分のことを他者に伝える際の新たなコンテンツを創出し, また自分の名前を深く知ることで誇りや愛着が芽生え,伝えたいという意欲の向上につながることが わかった。また,名前は知っていてもその由来を初めて聞くことで,友人の新たな一面を発見する喜 びもある。一方で,一部,名前の由来が不明瞭な児童や恥ずかしさを覚える児童が積極的姿勢を示さ ない事象も認められた。この点については,名前の由来のみならず,単元の目標表現でもある好きな ものや宝物など,自分を紹介する他の情報と融合させながら他者との交流を活性化させることにより,本活動が自己表現力と他者理解の促進に有効に機能すると考えられる。(3) 名前を異文化の視点で捉 えた Small Talk と言語活動は,異文化コミュニケーション能力の涵養に有効か,については,これを 支持する有効な諸点を見出すことができた。既述したように,ここで示す異文化コミュニケーション とは,隣にいる級友も固有の志向や考え,価値観,文化を保有する存在として捉え,様々な人と意思 疎通を図ろうとする営為を意味する。児童の反応からは,Small Talk や言語活動によってJTE やALT, あるいは友人の新たな側面を認知し,他者理解が深まるとともに,コミュニケーションの楽しさを感 得する姿が示された。この意味において,JTE, ALT,担任,級友を含め,名前や自分自身の個性を他 者に発信し,相手が伝えようとするメッセージを受容し相互理解を図ろうとする言語活動は,一人一 人がもつ多様な個性や特性にふれ理解を深めていくプロセスであり,平素の英語授業における異文化 コミュニケーション能力を涵養する有効な手段として機能すると考えられる。

以上の考察から,名前を起点とした Small Talk を異文化理解や文化的多様性の視点から再構成することで,自己紹介に関する Small Talk が児童の自己表現力や他者理解を促進するとともに,異文化コミュニケーション能力の涵養に寄与する可能性が指摘される。名前には親の願いや文化的意味,家族の伝統等が包含されており,共通点や差異の発見による驚きや喜び,そしてコミュニケーションの楽しさをもたらす異文化理解の素材としても有効性が認められる。さらに,A 校, B 校両校での授業実践にみられるように,名前に限らず様々な主題において,教師主導の Small Talk だけでなく,教師と児童,児童同士のやり取りや言語活動の充実化を図ることで,自己理解と他者理解が同時に深まり,コミュニケーション能力の向上が期待できる。

課題と今後の展望

他方,以下の3 点が実践的課題として挙げられる。一点目は,名前についての異文化情報がALT の 出身国や自身の名前の由来等に限定されることに起因し,多様な文化の反映をいかにして保障するか である。本実践研究では,A 校ではイスラム文化圏のゲストティーチャー,B 校ではラテンアメリカ 出身の ALT の妻の名前を紹介することで,新たな文化圏のユニークな名づけから学びを拡張させる ことができた。しかし,すべての学校でこうした条件が整うとは限らない。英語圏以外の名前をどの ように自然な形で授業に組み込むか,地域の人材活用を含め検討が必要である。二点目は,英語の語 彙や表現の限界から,日本語使用をどの程度許容するかである。目的・場面・状況に応じて単元の目 標表現を使用させながら,授業のねらいに即して臨機応変に対応し,段階的に指導していく工夫が求 められる。三点目は,事前リサーチや学校行事等との連携が教育効果を左右する鍵になるという点で ある。高学年でも自分の名前の由来を即座に回答できる児童は多くなかったため,目標とするやり取 りが活性化されるよう事前指導や準備が必要である。また,担任との連携や学校行事との連関により,言語活動の充実化と児童の意欲の増進につながり,教育効果を高める可能性も示唆された。

多様な他者と様々な話題について,ことばを使ってコミュニケーションを重ねることによって,多様性を尊重できる寛容性やオープンマインドの発達につながる。今後は,異文化コミュニケーションの向上を意図したSmall Talk のアイディアを蓄積し,共有を図っていきたい。

注

  1.    本稿に登場する氏名はリアリティとオーセンティシティを重視し,実名で記載している。ただし,関係者(保護者を含む)から実名記載に了承を得ており,プライバシー保護に配慮している。
  2.    文部科学省(2015)によると,学校規模の標準は学級数により設定されており,小・中学校とも

に 12 学級以上 18 学級以下が標準とされている。

  1. 3.   What does it mean? という表現は未習であるものの,必要性の観点からJTE の判断で導入されている。
  2. 4.   教員研修留学生として日本に留学中のエジプトの小学校英語教員である。

付記

本研究の遂行にあたり,A・B 小学校の授業担当の先生方また関係の皆様からの多大なご理解・ご 協力を賜り,深く感謝申し上げます。また,本研究はJSPS 科研費 23K02380 の助成を受けています。

ここに感謝の意を表します。なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はありません。

引用文献

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© 小学校英語教育学会(JES)
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