本研究では,インドネシアのボゴール農科大学が経営する演習林の経営状況と地域住民への影響について明らかにした。同大学演習林は,主に教育研究的利用と環境保全機能の維持を目的としているため,木材生産を行っていないが,国や大学からの資金援助を受けず,独自で得た収入で経営に関わるすべての支出を賄っていた。2013年の収入は約25億4,712万ルピア(2,316万円)で,このうち樹脂生産による収入が67%,エコツーリズムなどの活動による収入が25%を占めていた。演習林では,貧困層による盗伐や不法耕作を防ぐために,樹脂採取者として無職や土地を持たない地域住民と契約しており,2013年は40人の地域住民が樹脂採取を行っていた。樹脂採取者は年間平均で973万ルピア(8万8,528円)の代金を受け取っており,樹脂生産は演習林の重要な収入源としての役割を果たすだけでなく,地域の貧困層の所得向上に大きく貢献していた。ボゴール農科大学演習林は,保全的経営方式を採用しながらも,樹脂採取などの活動により貧困層への経済貢献を果たすことで,森林の利用と保全を両立させてきた先進的な経営モデルである。