抄録
本稿は,「人間主体の認識に基づく望ましさの志向」,もしくは「その認識が付与される客体(森林等)の性質」としての価値を軸に,人間と森林との関わりを再規定する試みである。この価値研究の視座に立つと,森林をめぐる「文化的価値」とは,森林の多面的機能,生態系サービス,既存の学問・研究領域等に影響されつつ,様々に揺らぐ枠組みとして規定されてきたと捉えられる。そして,その枠組みの中でも,実際の人間主体は,森林空間,林地,景観,樹木,動植物,道といった様々な客体に対して,極めて多様な価値を見出しており,それらは多種の社会変化も反映して絶え間なく創生されていることが明らかとなる。新たな森林利用としてのマウンテンバイカー,トレイルランナー,林業遺産をめぐる価値は,その好例を描いている。こうした内実と変化に踏み込んだ森林をめぐる価値研究は,個々の主体・客体にまつわる多様な価値を,精緻かつ満遍なく汲み取り,適切に調整や意思決定に反映させることで,持続的・効率的かつ公平な森林との関わりを導く可能性を持つ。