林業経済研究
Online ISSN : 2424-2454
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上高地の自然資源管理における重層的合意形成
国立公園の協働型管理に着目して
矢作 郁瑠三木 敦朗
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2020 年 66 巻 1 号 p. 61-69

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抄録

環境省は2014年,国立公園において,行政や事業体・住民など多様な利害関係者の参画・協議によって管理方針を決定する協働型管理体制の構築を推進する方針を示した。この典型である中部山岳国立公園上高地地域では同年に,方針に沿う形での中長期的な地域管理方針「上高地ビジョン2014」が策定された。本稿では,上高地の地域自然資源管理の合意形成過程を分析し,意思決定に関わる地域コミュニティの構造を明らかにした。結果は以下の通りである。上高地の協働型管理体制は,重層的な合意形成過程をもっている。意思決定は,行政主導と地元住民主導の2つのフォーマルな場で行われており,両者が並行して機能している。一方その下層では,地域美化団体が順応的でインフォーマルな合意形成の場として機能している。これらの重層性が合意形成を円滑にしている。また,地域自然資源管理に関わる様々なコンフリクトを調整してきた歴史があり,この経験が,関係者の利害調整への関与を促し,より広範な関係者間での意見調整を可能にする素地となったと考えられる。

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