抄録
日本において,1990年代以降,一部の山道が森林レクリエーションの場として再生されるなど,山道利用への関心が上昇している一方,多くの山道で管理体制は曖昧なままである。本稿では,三重県旧尾鷲町の山道の関係主体に対する聞き取り調査から,熊野古道伊勢路と尾鷲トレイルを対象に,整備・管理の実態を把握した。その結果,前者は市道として,尾鷲市教育委員会の管理下で,地元の保全団体やパトロール員等,多様な主体が整備に携わっているものの,主体間の連携に乏しいことがわかった。一方,地元のボランティア団体が再生した後者の山道は,道路法適用外かつ公図の不在により管理主体が不明な中,同団体が事実上の管理主体となり,利用者と連携して事実上の整備を続けているが,地権者の未承諾,公的機関との連携不足等の課題が明らかとなった。これらの整備・管理体制の差異は,適用される法令等とそれに基づく管理主体の有無を反映していると考えられる。特に尾鷲トレイルは,公共性の高まりに伴い,要請される整備水準が上昇し,管理責任を明確にすべき段階に移行している。公的機関が地権者との調整等を引き受け,整備活動を法的に支える体制の構築が望まれる。