抄録
森林に降った雨の一時的な貯留場所としての土層は、水源涵養機能を評価する上で重要な役割を果たすと考えられるが、土層の厚さを流域単位・微地形単位で評価した研究はまだ少ない。演者らは、水源涵養機能に大きく寄与すると考えられる表層土層(0<Nc≦5)と風化層(5<Nc≦40)の分布形態に着目し,異なった気候・地質条件下における森林流域の土層厚を調査し、微地形単位の土層厚分布様式の推定を行った。温帯に位置し、火山灰の影響が大きいと考えられる茨城県桂試験地(地質:中古生層)、茨城県筑波流域試験地(地質:片麻岩)、暖温帯に位置し,火山灰の影響が少ないと考えられる熊本県鹿北流域試験地3号沢(地質:結晶片岩)、亜熱帯に位置し火山灰が堆積していない沖縄県南明治山流域試験地(地質:第三紀層)において、多点で簡易貫入試験を行い、表層土層厚・風化層厚を測定した。桂・鹿北・筑波・南明治山各流域の、表層土層厚・風化層厚の分布形態の特徴を検討すると、土層厚を規定する要因は、地質条件と気候条件に大別されるが、地質条件には基盤岩石の種類と火山灰の土壌への混入度が挙げられる。このうち、基盤岩石の種類は主に風化層厚に影響を与え、火山灰は表層土層厚に大きな影響を与えると考えられる。気候条件は、表層土層厚に対しては斜面崩壊に対する抵抗性の指標となり、風化層厚に対しては風化の進行度の指標となると考えられる。地質条件は、基盤岩石の種類としては変成岩(筑波、鹿北)と堆積岩(桂、南明治山)に分かれる。変成岩では、片麻岩の流域(筑波)が斜面上方で風化層が厚いのに対し、結晶片岩の流域(鹿北)では斜面下方で風化層が厚い。堆積岩では、中古生層(桂)が頂部斜面・上部谷壁斜面・上部谷壁凹斜面の一部を除いて風化層が一様に薄いのに対し、第三紀層(南明治山)では斜面上部ほど風化層が厚い傾向が見られた。火山灰の土壌への混入程度では、北関東に位置する桂と筑波では関東ロームの影響が大きいと考えられる。双方とも谷頭斜面・谷頭凹地の表層土層厚が非常に厚く、桂試験地では上部谷壁斜面・上部谷壁凹斜面においても、最大7mを超える厚い地点が認められた。