日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: A01
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T1 「緑のダム」の検証とモデル化
流域の森林蓄積と蒸発散量
*服部 重昭
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抄録
流域の水保全機能を地域の森林立地環境を考慮して高度化するための森林管理・整備技術はまだ確立されていない。しかし、これまでに蓄積された流域における水文・気象__-__森林環境__-__人工林施業体系という枠組みの中には、相互の関わりを理解するのに有効な情報が存在すると考えられる。ここでは、流域試験で得られた蒸発散量デ__-__タを森林情報との関係で整理し、その結果を人工林の密度管理図と結合することにより、林分成長や間伐が蒸発散に及ぼす影響を評価する仕組みを提案する。
 わが国を含め世界各地で継続されている森林流域試験は、森林や土地利用の変化に伴う水循環や水収支の変動について時系列的な情報を提供している。そこで、わが国で実施されている16ヶ所の流域試験地を取り上げ、年間水収支と森林蓄積の情報を収集する。それに基づいて、蒸発散量と森林蓄積の関係を地域ごとに検討し、両者の関係を表す関数式を見出す。
 モデル林を想定し、地域ごと、樹種ごとに作成されている人工林林分密度管理図および収穫表を適用して、そこでは林分成長や間伐に伴って蒸発散量がどのように変化するかを試算する。
 森林蓄積と蒸発散量の関係は気象、立地環境により異なるので、両者の関係を地域ごとに評価することが望ましいと考えられる。しかし、これらの情報は限定的であり、森林蓄積と蒸発散量の関数関係を地域ごとに区分して解析できるだけのデ__-__タは集積されていない。そこで、ここでは地域を大きく三つ(__丸1__北海道・東北地域、__丸2__関東・東海・近畿・中国・四国、__丸3__九州・沖縄)に区分し、流域試験における年間水収支から得られた蒸発散量と森林蓄積の関係を検討した。関東__から__四国地域の針葉樹林における森林蓄積と年蒸発散量の関係について解析した。解析に用いたデ__-__タの中には森林蓄積が必ずしも水収支解析期間の平均値ではない場合、樹種も針葉樹と広葉樹が混在している場合が含まれる。なお、回帰式の相関係数は0.77であった。
 蒸発散量は森林蓄積のベキ乗式で近似され、森林蓄積がおよそ400m3/ha以下では森林蓄積の増加とともに蒸発散量は増加する。しかし、それ以上の森林蓄積についてはデ__-__タが不足しており、蒸発散量の変化は明らかでない。森林蓄積と蒸発散量の回帰関係からは、北海道・東北地域は回帰直線の下側に、一方、九州・沖縄地域はその上側に位置する傾向があり、地域性を読み取ることができた。なお、針葉樹と広葉樹の違いおよび回帰式の係数の物理的意味は明らかでない。
 この関係とスギ人工林の密度管理図を用いて、3,000本ha__-__1で植栽し、2回の下層間伐を実施した場合の蒸発散量の経年変化を計算した。年蒸発散量は樹高(林齢)とともに増大する。2回の下層間伐は収量比数約0.75を0.6に減少させた場合で、材積間伐率でおよそ20%である。この2回の間伐において年蒸発散量は30mm程度減少した。
 残された問題は多いが、ここでは流域水収支の研究成果を現場の施業・保育技術とつなぐ一つの方法として提案する。
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© 2003 日本林学会
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