日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: N17
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防災
崩壊発生源頭部における簡易貫入試験
*井良沢 道也長谷川 秀三漆崎 隆之
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キーワード: 崩壊地, 簡易貫入試験
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抄録

1.はじめに 斜面の土層構造を把握するために、簡易貫入試験機(従来型)が使われている。しかし、その貫入力の強さにより、表層部における樹木根系の発達深度や、ごく浅い位置にある表層崩壊のすべり面の推定には詳細に把握できない傾向にある。一方、長谷川式土壌貫入計(長谷川式と呼ぶ)は、根系発達深度や地表付近の構造の把握には適しているものの、地表下2m程度より深い地点の測定が困難である。そこで、両者の試験機の長所と短所を補う形で斜面の表層構造調査用の簡易簡易貫入試験機(改良型と呼ぶ)が開発された(吉松ら、2002)。ここでは改良型及び従来型簡易貫入試験機を用いて、表層崩壊の発生現地に適用して、その特性を検討した。 改良型簡易貫入試験機の構造は以下の通りである。改良型簡易貫入試験機の主な改良点は以下の2点である。__丸1__重錘を3kgと2kgの着脱式とした。従来の5kgから3kgと軽くしたことで、分解能良く敏感に土層構造の変化を捉えることができる。また2kg重錘を追加し5kgとすることで、従来型と同様の測定能力で試験可能である。__丸2__目盛り付きのスケールポールを試験機本体と平行に設置する。これにより一打撃毎の貫入量を把握することで、より詳細な解析を可能とした。 2.調査個所及び調査方法 昨年7月11日に東日本を縦断した台風6号は梅雨前線を刺激して岩手県内において多量の降雨をもたらし、斜面崩壊や土石流を釜石市において発生させた。調査個所は5個所である。松原の沢(その地区で5地点試験を実施:以下同様),松原沢の2(3地点),駒木の沢(3地点)、浜町(3地点)、新浜町(3地点)である。いずれの個所も、流域上流部で発生した表層崩壊に起因する土石流あるいは土砂流出が発生し、人家等に直撃して松原の沢では死者2名を出すなど被害を与えた。本地域の地質は古生層の釜石層を主体とし、粘板岩とチャートからなっている。試験個所は崩壊地発生個所の直上部地山及び崩壊地の側岸の地山斜面を選定した。今回実施した5個所の調査地点とも改良型と従来型の貫入場所はほぼ同地点で実施した。3.貫入試験の結果 松原の沢における改良型と従来型の試験データの結果を対比する。現地調査による表層崩壊の規模は幅8.5m×長さ14.5m×深さ1.2m程度で約150m3程度と推定された。崩壊地点の斜面勾配は24°である。ここでB地点は崩壊源頭部中央の上部斜面、A・C地点はそれぞれ崩壊源頭部両端の上部斜面に位置する。 Nc'値によるすべり面の判定については、Nc=0.5Nc'(吉松ら、2002)の関係より換算すると、Nc'値で20__から__30くらいがすべり面に当たる可能性がある。またNc'値の出現パターンは、ある深さで急激に増加しており、この急激に変化する深さがすべり面となった可能性が高い。このことから、図よりA・C地点では1.5m付近,B地点では1.0m付近にすべり面が想定された。これは現地調査による今回発生した表層崩壊深度に近い。 また、それぞれの貫入深度をみると、BはA、Cと比べて土層厚が浅い。B地点は谷部であり、凹状の地形をなしており、その周辺の植生は他よりも若齢であると推察された。貫入試験結果は、こうしたことを裏付け、この流域では今回の土石流ほど大規模でなくとも、以前にも崩壊が起こっていた可能性がある。 B地点のグラフの60__から__80cm深や、C地点の100__から__130cm深では、Nc'値が大きく振れているが、これは礫に当たったためと考えられる。このように改良型では一打撃毎の貫入抵抗値を測定するため、土壌本来の硬さと礫や根系に衝突した際の貫入抵抗値が分離できるなど、詳細な土層構造の把握が可能である。 今後は植生や微地形調査など崩壊地における測定データを増やして、貫入試験値との対比を行なっていきたい。

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© 2003 日本林学会
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