一次遷移の初期過程では、利用できる土壌養分の量は非常に限られる。外生菌根菌は樹木の根に共生し、その養分吸収を促進することから、先駆樹木実生の定着や生育に必要不可欠である。我々のこれまでの研究によって、富士山の一次遷移初期過程においても、多種多様な外生菌根菌が存在していることが分かっている。それぞれの菌は、宿主樹木に対して異なる影響を及ぼすことから、どのような菌が実生に定着するのかを明らかにすることは、実生の生育のみならず、植生遷移を考える上で重要であろう。本研究では、先駆樹木の当年生実生を、ミヤマヤナギのあるパッチ、ミヤマヤナギのないパッチ、裸地に植栽し、既に存在する菌根性樹木の存在が実生の菌根形成と菌根菌群集構造に及ぼす影響を調べた。さらに、それぞれの実生の乾重や養分含量を測定し、共生する外生菌根菌の種と実生の生長の関係を調べた。裸地やミヤマヤナギのないパッチに植栽した実生は菌根が形成されず、成長も悪かったが、ミヤマヤナギのあるパッチに植栽した実生はいずれも菌根を形成し、成長も促進された。形成した菌根の大部分は、成木に感染している菌と同じであった。このことから、既に存在しているミヤマヤナギが菌根菌母樹として機能し、実生の菌根形成、成長を促進したものと考えられる。こういった機能は、植生遷移の進展に大きな影響を及ぼすものと考えられる。