日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: C01
会議情報

林政 I
経済状況と距離の差による森林利用の違い
ネパール、サンク・コミュニティフォレストにおける聞き取り調査より
*内山 鉄也Manandhar Anita庄子 康
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1 背景・目的1988年の林業マスタープラン発表以降、ネパールで推進されてきた地域住民による森林管理は、各地でその成果が報告されている。しかし、資源が豊富な南部のタライ地方などで、コミュニティフォレスト(以下CF)を商業的に利用し、現金収入を得る森林ユーザーグループ(以下FUG)が出始める一方で、地域住民のCF資源に対する需要が高く、なかなか資源が回復しないCFが存在するなど、地域ごとの格差も明確となってきている。本研究は、CFの状態を規定する住民の森林利用について、各世帯の所有資源、CFからの距離の側面より考察を行い、今後FUGレベルで当面するCF管理の課題について検討を行った2 調査対象・調査方法ネパールの首都カトマンドゥから東へ20kmほどのサンク村にあるパニファト地区のFUGを調査対象とした。当地区は山の南斜面にあり、地区の南端が標高1400m、北端が1600mであり、1600m以上の場所がCFとなっている。現在のFUG役員8名、前役員3名への聞き取りから、当地区のCF管理、FUG運営の状況を明らかにした上で、メンバー34戸に対して、各世帯の基礎的な情報、CF利用状況などを面接式のアンケートにより調査した。調査期間は2002年10月2日から10月14日である。今回はパニファト地区を地図上の等高線で区切り、CFまでの距離によって「近(11戸)」、「中(12戸)」、「遠(11戸)」の3グループに分け、調査結果の分析を行った。3グループの地理的区分は以下の通りである。近・・・標高1540m以上 中・・・標高1460mから1540m遠・・・標高1400mから1460m 3-a 調査結果1 -当地区のCF管理、FUG運営- 水量が減少する川の水源確保を目的とし、1992年にサンク村近隣の森林保護を開始した住民が、1995年以降それぞれの地区でFUGを組織し、森林の利用・管理を開始した。パニファト地区もその一つである。 当地区はFUG発足後、年2回の採草以外原則立ち入り禁止という厳重な保護を実施した結果、急速に資源が回復している事が特徴的である。2001年1月、営林局の指導によりFUG役員が全員女性となって以降、年2回の枯れ枝採取と、通年の採草が許可されるようになった。3-b 調査結果2 -住民の生活とCF利用状況- 調査した34戸のうち、専業農家が約2/3、兼業農家が約1/3であった。一世帯あたりの耕作地面積は、約0.47haであるが、地域別に見るとCFに近い地域は雨水利用の畑地面積の割合が高く、CFより遠い地域ほど灌漑水利用地が増える傾向にある。 多くの世帯は、生垣や田畑の畦に私有木を所有していたが、私有林を持つ世帯は稀であった。地域別ではCFより離れた地域ほど、私有林木を多く持つ傾向が見られた。 家畜とその飼育目的では、牛と水牛が糞の肥料化、ミルク、山羊が肥料、食肉、ミルク、鶏が卵であり、ミルクと山羊の肉を販売し、現金収入を得ている世帯が多数存在した。 CF林産物は、敷き藁で24戸、家畜飼料で8戸、薪で12戸が利用していた。 CF林産物の占める割合が、利用している資源の20%を上回る世帯では、私有木本数とCF利用割合に反比例の傾向が見られ、特にCFに近い世帯では、その傾向が顕著であった。CFより離れた2地域では、私有木本数と関係なく、CFを利用していない世帯が多かった。  各世帯の農地面積、家畜飼育頭数とCF利用割合の関係についても分析を行ったが、CF利用割合0%という世帯は、CFよりの距離によって規定される傾向が見られるのみであった。4: 考察・今後の展望 本来CFを利用するための組織であるFUGに、CFを全く利用しないメンバーが存在している事が明らかとなった。 当地区は地区内であっても「近」「中」「遠」では、それぞれ世帯ごとの所有資源量に差が生じており、そのような地域ごとの所有資源量の差が、CF利用の地域差に与える影響は否定できない。しかし、所有している資源の量が同程度であっても、CFまでの距離により、利用割合に大きな開きが見られるなど、CF資源の利用は、CFまでの距離に影響を受けていると言える。 このような現状を踏まえると、今後、当地区で予定されている果樹栽培や、桑の植林+養蚕が行われた場合、CF付近に住む一部の住民が、利益を独占してしまう可能性が考えられる。また、利益を全メンバーで平等に配分していくには、管理の平等な負担が前提となるが、そのような際、現在CFが遠いため利用していないといった住民が、どのように管理を負担していくかが問題となる。
著者関連情報
© 2003 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top