日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P1171
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樹病I
枝打ちを行ったヒノキ林における樹幹陥没等の発生状況とその誘因
*在原 登志男
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抄録

○はじめに
 福島県船引町に位置する海抜高640mの21年生ヒノキ林は,11年前(10年生時)の6月下旬(夏期)に初回の枝打ちを行った。その後,14年生および17年生時の2月下旬(冬期)に枝を打ち,現在は6mの高さまで枝打ちを完了している。初回の枝打ち時に,漏脂病の特徴である樹幹部からの樹脂流出を既に認めていたが,枝打ち後も枝打ち痕から樹脂の流出または点出が見られた。
そこで,供試木の提供を受けて,枝打ち時期の違いによる樹脂流出および陥没等の発生状況とその誘因を調査した。
○調査方法
 2002年5月中旬,平均胸高直径12.5cmの5本の被害木を伐倒した。伐倒木は樹脂流出および陥没等の激しい幹部を1.5mの長さに玉切って8本持ち帰り,2cm間隔で玉切って円盤を採取した。円盤はその面に現れた枝打ち痕,枯れ枝の巻き込み状態などを調査するとともに,年輪幅の減少のみを伴って欠損を伴わない凹みまたは年輪幅の減少と欠損を伴う陥没の発生状況を調査した。
○結果と考察
 枝の付け根からきれいに打ち落とされた残枝なしにおける夏期の枝打ち数は10枝,冬期で6枝を調査したが,いずれの枝打ち痕にも樹幹の凹みや陥没が認められなかった。また,全ての枝打ち木口面は,枝打ち翌年または翌々年に癒合組織で被われていた。
枝の付け根からきれいに打ち落とされなかった残枝は,夏期の枝打ちで25本,冬期で28本の計53か所を調査した。樹幹の凹みまたは陥没なしの発生頻度は,前者で88%,後者で57%となり,樹幹の変形は冬期で高かった。また,樹幹陥没の発生頻度は,現在のところ,それぞれ8%および7%と差がなかった。
次に,全調査件数53件中38件(72%)について,残枝ありの枝打ち木口面が癒合組織で被われるまでの期間を算出する。なお,木口面は未だ癒合組織で被われていないものがあり,樹幹の凹みまたは陥没なしで8%が,そして凹みまたは陥没ありが56%に相当し,前者で癒合済みの割合が高かった。ちなみに,癒合が済んだもののみで両者の期間を求めると,前者は3.7(平均)/2__から__7(範囲)年,後者は7.0/5__から__11年となった。
 また,残枝の長さと樹幹の凹みまたは陥没か所の出現状況を検討したところ,凹みまたは陥没は2,3mmのごくわずかな残枝からも発生していた。
 さらに,出現した枯れ枝の巻き込み48本について,漏脂病等の発生状況を調査したところ,樹幹の凹みは全体の19%,陥没は8%で発生していた。これらの発生頻度は,残枝ありの枝打ちの凹み21%,陥没8% とほぼ同率であった。
 以上の結果から,残枝なしの枝打ちは夏期および冬期であっても木口面の癒合が2年以内と早く,年輪幅の欠損を伴わない樹幹の凹みや欠損を伴う陥没が生じないと考えられる。また,残枝ありの枝打ちでは癒合が遅く,残枝の存在や癒合の遅れがきっかけとなって数10%で樹幹に凹みを生じ,さらに10%弱で陥没が引き起こされたと推定される。これらの異常は,長さ2,3mm のごくわずかな残枝からも発生が認められた。そして,枯れ枝の巻き込みか所でも,残枝ありの枝打ちと同様に,数10%で樹幹に凹みを生じ,さらに10%弱で陥没が引き起こされたと推定される。

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© 2003 日本林学会
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