日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P1172
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樹病I
多摩川源流域における林相の違いと小型哺乳類の分布について
*石井 徹尚河原 輝彦
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抄録

はじめに
 近年、人々が森林に求める機能は木材生産機能から公益的機能へと移行しており、環境に配慮した多様な森林施業が求められている。健全な森林を育成する過程で植生面のみならず、野生動物もまた、森林生態系の一員としてその研究が行われる事は必要不可欠であり様々な環境要因が与える影響を考慮する必要があると考えた。本研究では小型哺乳類を多様な環境の林分で捕獲し、その分布や個体数変化をみることで森林の豊かさの指標とするための調査及び検討を行った。
調査地および調査方法
Siteは山梨県小菅村、東京都奥多摩町にそれぞれ標高・林相別に5ヶ所選定し、スナップトラップ(パンチューPMP型)に付け餌として生ピーナッツ、サツマイモを用い、それぞれ30個、各Siteにつき60個(計300個)仕掛けた。さらに、きな粉を添加した。トラップは一晩置き、翌朝回収した。調査は平成14年6月から平成14年11月まで、毎月1回ずつ計6回行った。尚、使用したトラップは両調査区で延べ3,600個になった。
山梨県北都留郡小菅村・東京都水源林
Site-A人工針葉樹林 標高700から850mB天然広葉樹林 750から1,150m C人工針葉樹林 850から1,000m D天然広葉樹林 1,200から1,350m E天然広葉樹林 1,420から1,450m
奥多摩演習林 東京都西多摩郡奥多摩町 狩倉山
Site-A人工針葉樹林700から850m B広葉樹二次林 750から1,150m C人工針葉樹林 1,200から1,350m D広葉樹二次林 750から1,150m E広葉樹二次林 1,400から1,452m
結果
小菅村
 捕獲された種はアカネズミApodemus speciosus ヒメネズミA.argenteus カゲネズミEothenomys kageus ヒミズUrotrichus talpoides ヒメヒミズDymecodon pilirostrisの5種であった。捕獲数の季節変化を見ると6月にピークがあり,7月に最小捕獲数となった。その後11月まで緩やかに捕獲個体数は増加した。全捕獲数に対する各Siteの捕獲割合は、Site-Aは6.2%、Bは16.2%、Cは33.7%、Dは27.5%で、Eは27.5%であった。
奥多摩演習林
 捕獲された種類は、アカネズミ,ヒメネズミ,ヒミズの3種であった。季節変化を見ると春季と秋期に捕獲数が増加する傾向がみられた。Site-AからEの全捕獲数に対する各Siteの捕獲割合は、Site-Aは8.5%、Bは23.4%、Cは21.2%、Dは29.7%で、Eは17%であった。
考察
小菅村全体における小型哺乳類の森林利用について
小管村ではSite-C,D,E地域の捕獲数、種数ともに多く、生物多様性が保たれている環境であると考えられた。天然林は捕獲数が多い傾向があるが,人工針葉樹林Aでは、捕獲数・種数は少なかった。この理由として、適切な間伐が行われておらず下層植生の導入が成されていない為であると考えられた。また、適切な間伐が行われている人工針葉樹林Cでは、捕獲数が最大であったこと、捕獲種数が最大であったこと、調査期間を通じて常に小型哺乳類が捕獲されたこと、の3点から人工針葉樹林であっても、天然林と同様に小型哺乳類にとって十分生息可能な空間と成り得る事が推測された。
奥多摩演習林全体における小型哺乳類の森林利用について
 Site-B,C,Dともに捕獲数が多く、小型哺乳類にとって生育しやすい環境にあると考えられた。一方、人工針葉樹林であるSite-A,C地域の構成種、捕獲数は乏しかった。この理由として、適切な森林施業が行われていないことから、林床の光環境が悪く、加えて、奥多摩地方に生息するニホンジカによる食害で下層植生が破壊されたことが影響していると考えられた。
まとめ
以上のことより、適切な間伐が行われ、造林木の立木密度が適度な状態にあり、下木として様々な樹種の広葉樹が生育可能な光環境を有する林分は、動物相全体から見て多様な生息環境を提供しており、今後このような林分に導く為の施業が行われていくことが、森林生態系を考慮する上で重要である。

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© 2003 日本林学会
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