抄録
1.目 的 森林の水保全機能の内、渇水緩和機能に関わる働きは、土壌孔隙の果たす役割が大きいと考えられている。本報告では、流出量の測定値から推定される保水容量と土壌孔隙量から推定される保水容量を比較検討する。2.方法(1)流出逓減曲線を用いた保水容量の推定方法 堀田(1984,1985)は、流出量の基準逓減曲線を求めて、流域の保水容量を推定する方法を提示した。さらに、加藤ら(1995)は、その方法で全国の多目的ダムの流量観測資料を用いて保水容量を推定した。この方法は、降雨日を除く、ある日の流出量と翌日の流出量を直交座標上にプロットし、その散布図をもとに基準逓減曲線を求め、その曲線で示される流量を積算して保水容量を推定するものである。本報告では、その方法を簡素化し毎日の流量減衰の散布図から、減衰を2次曲線で近似し、その近似曲線式で保水容量を推定することとした。この方法で得られる基準減衰曲線は、堀田の方法に比べ精緻さに欠けるが、日流量データが揃っていれば簡便に算出できる利点がある。 使用データは、宝川森林理水試験地の公表されている日流量観測値の中で、本流流域と初沢1号および初沢2号の観測値が揃っている期間として1978年__から__1981年までの観測値である。宝川流域は冬季の降水は雪となり積雪するが、融雪出水期間には積雪の影響が大きく、降雨イベントに対応した流出量の増加、減少が観測できない。そこで、本流流域では6月1日__から__11月14日まで、初沢1号沢および2号沢では5月1日__から__11月14日までの期間で降水の観測された日を除いた日流量データを抽出して解析に供した。(2)土壌孔隙量を用いた保水容量の推定方法 本流流域における土壌調査結果を基に、有光ら(1995)が、初沢1号沢および2号沢で行った方法に準拠して、本流流域の保水容量を算出した。3.結果(1)流出量に基づく保水容量の推定 先ず、抽出したデータをもとに、ある日の日流量とその翌日の日流量を一対のデータとした。降雨によって流出量が増加し、その後急激に減衰する時期は、本報告での保水機能の対象外と考え、日流量の減少が前日の30%を超える場合を除去した。データの散布図をもとに原点を通る2次近似曲線を描き、この近似曲線を用いて、初期日流出量を30mmとして各流域の日流出量が1mm未満になるまで累積すると、本流流域で 201..9mm、初沢1号沢で 174.2mm、初沢2号沢で 163.3mm であった。(2)土壌孔隙量に基づく保水容量の推定 試験地に分布する各土壌型ごとの保水容量と土壌型ごとの面積割合と各土壌型ごとの保水容量をもとに各流域の保水容量を算出した結果、粗孔隙量ベースで、本流流域 201.1mm、初沢1号沢で 288.8mm、初沢2号沢で 215.5mm であった。小孔隙ベースでは、本流流域 71.1mm、初沢1号沢で 66.0mm、初沢2号沢で 26.7mm であった。3.考 察 流出量から推定される保水容量は、本流流域で最も大きく、次いで初沢1号沢、2号沢の順で小さくなった。これは、流域面積が大きいほど、様々な流出状態にある小流域を合流するため流出量の変動が緩やかになるためではないかと考えられる。 土壌孔隙量に基づく保水容量の推定値は、粗孔隙、中孔隙、大孔隙で比較すると1号沢>2号沢>本流であったが、小孔隙では、本流>1号沢>2号沢であり、流出量から推定した値と同じ傾向を示した。流域の保水機能に小孔隙が大きな働きをしている(有光ら 1995)ことを考慮すると、流出量の減衰が、土壌の小孔隙量の大小を反映しているものと推察される。