日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: F01
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生態
落葉期におけるコナラ葉群の窒素動態
*右田 千春千葉 幸弘丹下 健
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キーワード: 落葉期, コナラ, 窒素動態
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抄録
光合成や呼吸などの生化学反応や同化産物の転流、枯死など物質循環過程を包括的に扱うことで、森林生態系の現状把握だけでなく、現在までに観測で得られていない条件(高温、高CO2濃度など)における予測が可能になる。樹冠は光合成を通じて物質生産を担っており、光合成は生態学の物質循環を起動する最も重要な現象である。葉の光合成能力と葉面積あたりの窒素含有量は高い相関関係にあり、窒素含有量は光合成の時間的・空間的変動を理解する上で極めて重要である。落葉期には、窒素資源が葉から回収されるために、窒素含有量が減少すると言われるが、回収の速度や回収率については未解明な点が多い。そこで本研究では葉のフェノロジーと光合成速度の季節変化を関連づけるため、落葉期の葉の窒素含有量について地上高ごとに調べた。調査林分は森林総研構内の25年生コナラ人工林である。立木密度は約1700本/ha、平均樹高は約14m、平均胸高直径は14.82cm。林分内の5個体を囲うように15mのタワーを設置し、4個体の供試木を選定した。9月初めから11月末にかけて計12回、曇天のもとで魚眼レンズを用いて各層の全天写真を撮影し、真下の枝葉をサンプリングした。得られた画像は画像解析を行い開空度を求めた。サンプル葉は葉面積計を用いて葉面積を測定した後、85℃で48時間乾燥させ、乾重を測定した。サンプル葉は葉脈をよけて小さくパンチングし、CN分析計で乾重当たりの窒素含有量を求めた。乾重あたりの窒素含有量は、SLA(比葉面積)を乗じて、葉面積当たりの窒素含有量に換算した。重量ベースの窒素含有量はすでに知られているように林冠内の位置に関係なくほぼ一定であり、落葉期の窒素含有量が減少している途中であっても同様であった。しかし、葉面積ベースの窒素含有量は林冠内の位置によって明確に異なり、落葉期の窒素含有量は季節変化を示した。11月初旬まではどの高さでも窒素含有量の減少はほとんど認められなかったが、11月中旬に入ってから急速に減少しはじめ、わずか二週間のうちにほとんどの葉が落葉に至った。落葉期における葉内窒素含有量の減少は、樹冠内での窒素利用戦略のための効率的な配分とは異なるメカニズムによるものと考えられる。つまり落葉期における窒素含有量は単に窒素利用戦略だけで決まるのではなく、気温変化あるいは光条件(光量・光質)などが窒素回収のスイッチとして機能している可能性がある。今後、葉位の違いなども考慮した上で光条件や気温変化など気象条件も合わせて検討していく。
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© 2003 日本林学会
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