日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: A16
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T2 従来の育種技術とバイオテクノロジー等新技術との統合による新たな林木育種の展開
北部九州スギ在来品種の成立過程の解明
スギ古木群と在来品種のMuPS型
*久枝 和彦白石 進宮原 文彦宮崎 潤二宮島 寛
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キーワード: スギ在来品種, 九州地方, MuPS, DNA
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抄録
1.はじめに 九州地方では古くからスギのさし木造林が行われており、多数のさし木品種(在来品種)が成立している。宮島(1989)はこれらの品種について、形態的な特徴を主な指標として分類・同定を行った。また、スギ品種のうち、アヤスギ、ホンスギ、メアサ、ヤブクグリの系統に関しては、社寺の老齢木に形態の類似した個体がみられることから、社寺老齢木がこれらの起源である可能性を示唆した。 近年、環境要因の影響を受けず、客観的にスギ品種の識別を行う指標として、 DNAマーカーが用いられるようになってきた。久枝・白石は、簡便にスギ品種・クローンを識別できる再現性の高いDNA分子マーカーとしてMuPS(multiplex PCR of SCAR markers)を開発し、主な九州産スギ在来品種について、DNA型(MuPS型)に基づくデータベースを構築した。 本研究では、北部九州の社寺などに植栽されている古木群のMuPS型を決定し、北部九州在来品種の成立過程について考察した。2.材料と方法 北部九州の神社などに植栽されている34ヶ所のスギ古木群(計128個体)から針葉を採取した。それぞれの針葉から改変CTAB法により全DNAを抽出した。PCRの溶液組成(10μl)は、1×PCR Buffer, MgCl2 2.5mM, 200mM 各dNTP, Platinum Taq DNA Polymerase (Invitrogen) 0.25units, primer mixture, 鋳型DNA 20ng/10μlである。反応処理はGeneAmpTM PCR System 9600(PERKIN ELMER)を用い、94℃・30秒の後, 94℃・30秒, 65℃・30秒, 72℃・90秒を30サイクル, 最後に 72℃ 5分の温度条件で行った。PCR産物は、1.5%アガロースゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、302nmUVトランスイルミネーター上で観察した。同一サンプルを2回繰り返し分析した。各遺伝子座のフラグメントの有無を1/0で表記した19桁の数字をMuPS型とした。なお、フラグメントの増幅が明瞭でない遺伝子座については“9”と表記し、識別に用いないこととした。3.結果および考察 各個体のMuPS型を在来品種のデータベースと照合した結果、在来品種アカバ、カゾウ、シャカイン、ホンスギ、メアサ、ヤブクグリのMuPS型がそれぞれ検出された(表1)。これらは、いずれもかなりの老齢木であり、これらの在来品種の起源である可能性が示唆された。なかでも、カゾウ、シャカインは、これまでその由来についてはっきりしておらず、今回MuPS型が検出された個体がそれらの品種の起源で有る可能性が示唆された。また、ヤブクグリについては、この品種の主要造林地域である大分県の古木群で検出されず、佐賀県の古木群で検出された。  また、今回調査した古木のMuPS型のうち、主要九州産在来品種のMuPS型と一致しなかったもののなかで、14種類のMuPS型が複数の古木で検出された(表2)。このことから、在来品種以外にも、古くから多くのクローンが神社の神木などとしてさし木により伝播していたことが明らかになった。
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© 2004 日本林学会
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