日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: A34
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T1 樹木の環境適応とストレスフィジオロジー
スギ感染特異的タンパク質PR-5ファミリーの発現特性と連鎖解析
*二村 典宏谷 尚樹津村 義彦篠原 健司
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抄録

 近年、スギ花粉症患者が急増し、社会問題となっている。他の植物でのアレルギー研究から、多くの感染特異的タンパク質がアレルゲン活性を有していることが明らかになっている。筆者らは、北米で報告されているビャクシン(Juniperus ashei)花粉症の感染特異的タンパク質アレルゲンJun a 3に相同性のあるスギcDNAを6種類(Cry j 3.1からCry j 3.6)単離し、各器官での発現特性を報告した。今回は、感染特異的タンパクPR-5ファミリーに属するCry j 3.1からCry j 3.6それぞれについて、多型を検出して基礎連鎖地図にマッピングすることを試みると共に、各種ストレスや植物ホルモンによる発現誘導について解析した。 Cry j 3.1からCry j 3.6cDNAをプローブとしたときのRFLP (Restriction Fragment Length Polymorphism) とCry j 3.1からCry j 3.6を特異的に増幅するPCRにより多型の検出を試みた。YI96×YI38のきょうだい交配によって得られたF2分離世代150個体を解析に用いた。連鎖地図へのマッピングには、JoinMap Ver. 3.0を使用した。 連鎖解析の結果、Cry j 3.1からCry j 3.3は第3連鎖群上の互いに分離できない近傍にマッピングされた。Cry j 3.4も第3連鎖群上にマッピングされた。Cry j 3.5は第10連鎖群上にマッピングされた。 Cry j 3.1からCry j 3.3が高い相同性(アミノ酸配列で86%から92%)を示すだけでなくゲノム上の非常に近い位置に存在すること、Cry j 3.1からCry j 3.3と比較的相同性が低いCry j 3.5 (約40%)が別々の連鎖群上にマッピングされたことは、分子進化を考える上で興味深い。 ストレス処理及び植物ホルモン処理には、湿らせた濾紙上で発芽させたスギ芽生えを用い、水もしくは各種溶液を張ったシャーレに移してストレス処理を行った。UVストレスは、UV-Bを88.1J/m2hの強度で16時間照射することにより行った。その他に、塩処理(220mM NaCl)、植物ホルモン処理 [2mM サリチル酸 (SA)、100mMジャスモン酸メチルエステル (MJ)、10mM エテホン]、エリシター処理 [300mMもしくは3mMアラキドン酸 (AA)、25mg/L セルラーゼ、両者の組み合わせ]を行った。処理前と処理後24時間の芽生え全体からCTAB法により全RNAを抽出し、RNAゲルブロット法により各遺伝子の発現特性を調べた。 ストレスや植物ホルモン処理による発現誘導を調べるため、Cry j 3.1, Cry j 3.3, Cry j 3.4, Cry j 3.5, Cry j 3.6の5種類のプローブを用いて、互いにクロスハイブリしない条件で、RNAゲルブロットを行った。Cry j 3.4はエテホン処理を施したときに最も顕著に発現誘導が見られた。また、Cry j 3.4はサリチル酸や塩ストレスによっても発現が誘導された。Cry j 3.1は植物ホルモン処理では殆ど発現が誘導されなかったが、UVおよび塩ストレスにより発現が誘導された。その他の処理区では、発現誘導のレベルは低いか、あるいはまったく見られなかった。 このように、各種ストレスや植物ホルモンによる各遺伝子の発現誘導のされ方に差異が見られた。 Cry j 3.1からCry j 3.6の感染特異的タンパク質としての役割を調べるため、エリシターとしてセルラーゼとアラキドン酸処理をしたときの各遺伝子の発現誘導を調べた。その結果、Cry j 3.3, Cry j 3.4, Cry j 3.6に関しては、アラキドン酸単独もしくはアラキドン酸とセルラーゼとの組み合わせにより発現が顕著に誘導された。Cry 3.1に関しても0.3mMアラキドン酸と25mg/Lセルラーゼをあわせて処理したときにわずかに発現が誘導された。これに対し、Cry j 3.5に関してはエリシターによる発現の誘導効果は殆ど認められなかった。 以上の結果から、Cry j 3ファミリーを構成するメンバー間に、役割の違いがあり、発現誘導に至るカスケードにも違いがあることが示唆された。

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© 2004 日本林学会
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