日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: B39
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防災
渓畔林の樹冠被覆が渓流水温に及ぼす影響
*浅井 祐二
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抄録
渓畔林の樹冠被覆が渓流水温に及ぼす影響○浅井 祐二(名大農)・服部 重昭(名大院生命農)1.背景と目的 河川や湖沼の周辺に分布する森林群落のことを一般的に水辺林と呼ぶが、その中でも山地上流部に位置しているものは渓畔林と呼ばれている。渓畔林には日射遮断、落葉や落下昆虫の供給、倒木の供給、栄養元素の交換などの機能が期待されているが、定量的な評価が十分にされていないのが現状である。そこで本研究では渓畔林の持つ日射遮断効果に着目し、渓畔林の樹冠が水面を被覆することによる水温上昇抑制効果について解析することを目的とした。2.方法 愛知県稲武町名古屋大学付属演習林の月ヶ平流域において、渓流水温を自動観測型水温計(KADEC-U21およびonset社製データロガー)を用いて観測した。なお、観測地点は源流部に1点、源流部から300m付近に6点、685mに1点、750m付近に6点、1185mに1点の計15点であり、観測期間は7月から11月とした。また、渓流の樹冠の被覆割合を魚眼レンズカメラによって5mごとに撮影し、解析ソフトLia32を用いて算出した。今回の魚眼レンズカメラによる撮影角度は相対照度との相関が最も高くなった60度を用いた。3.結果と考察 上流部の観測区間である300m付近には広葉樹が多く見られ、渓流における着葉期の開空割合は200m_から_400mの平均で28.7%と小さな値となったが、落葉期になると樹冠が開けることにより平均で47.1%にまで増加した。一方下流部の観測区間である750m付近は主に針葉樹で覆われており、650m_から_850mの着葉期平均開空割合は41.8%と高い値を示したが、落葉期になっても開空割合にあまり変化が見られず、平均で47.2%にまでしか上昇しなかった。7月から9月にかけての水温は下流に向かうほど高くなる傾向が観察された。これは流水中に日射や土壌、大気から熱の流入を受けているためであろう。特に下流部の観測区間においては開空割合が80%を超える720m地点を通過することで期間平均で0.3℃ほど、最高で0.86℃上昇した。10月以降になると上流部と下流部で水温にほとんど差が見られなくなった。この時期は落葉による樹冠の開空割合の増加によって水面に日射が当たりやすくなるが、日照時間が短くなるために結果的には水面到達日射量が小さくなることに起因すると推察される。また、この時期は水温よりも気温、地温の方が低い値を示しており、流水中に水から大気、土壌への熱移動が生じていることも要因の一つとして考えられる。4.まとめ今回の結果からは渓畔林の樹冠開空割合が80%を越える地点を通過することによって夏季においては水温上昇が起こっていること、落葉期には樹冠の開空割合が増加するものの気温や地温が低下するために水温上昇が起こりにくくなることが確認された。よって今後は夏季を中心に大気・渓流水・土壌間での熱移動に着目して、樹冠被覆の影響を物理的に解明する予定である。
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© 2004 日本林学会
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