日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D12
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T8 森林土壌におけるガスの動態
ヒノキ林における間伐が土壌ガスフラックスと窒素動態に及ぼす影響
*稲垣 善之石塚 成宏阪田 匡司高橋 正通深田 英久
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抄録
 森林土壌における温暖化ガスである亜酸化窒素とメタンのフラックスには、様々な環境要因が影響を及ぼすが、その一つとして生態系の窒素循環様式の影響があげられる。窒素循環様式が及ぼす影響としては、土壌中の硝化速度が高い場合、硝化に伴って発生する亜酸化窒素の放出が増加することや、メタンの吸収速度が変化することが予想される。本研究は、高知県東津野村のヒノキ人工林において、間伐が生態系の窒素動態に及ぼす影響を、葉の養分分析、土壌の窒素無機化速度、温暖化ガスフラックスの変化から明らかにすることを目的とする。 高知県東津野村の天狗地区と旧宮地区のヒノキ林を対象とした。それぞれの林分において隣接する2つの20 ×20mの調査区を設定した。2002年春に調査区の一方を本数で50%の間伐を実施し、もう一方を無間伐の対照区とした。それぞれの試験区において 5cmまでの表層土壌を2002年9月に採取し、25℃、30日間の実験室培養によって窒素無機化速度と硝化速度を測定した。ヒノキと下層植生の葉を2002年7月に採取した。土壌からのガスフラックスを測定するために内径40cmのチャンバーをそれぞれの試験地に5カ所設置した。2002年8月から翌年3月まで月に1回ガスを採取し、二酸化炭素、亜酸化窒素、メタンのフラックスを測定した。ヒノキ葉の窒素濃度は旧宮、天狗の対照区において、それぞれ8.3 、10.2 mg/g、間伐区で9.0、11.5 mg/gであった。間伐区の窒素濃度は、対照区よりも8_から_12%大きかった。表層土壌の窒素無機化速度は、旧宮、天狗の対照区でそれぞれ0.2、0.9 mgN/kg/d、間伐区で1.6、4.1 mgN/kg/dであった。間伐区の窒素無機化速度は対照区の4_から_8倍に増加した。窒素無機化速度と同様に、間伐区では対照区に比べて硝化速度が高くなった。対照区の窒素無機化速度は、日本の森林土壌の中では低い水準であったが、間伐によって物理的な環境要因や微生物が利用する炭素資源が変化したために急激に増加したと考えられた。また、土壌における窒素無機化速度の増加に対応して、ヒノキの窒素吸収も増加するために、葉の窒素濃度が増加すると考えられた。森林土壌からの二酸化炭素放出速度は、8月から翌年3月までの平均値で3.4_から_5.3 gCO2/m2/d、亜酸化窒素放出速度は、5_から_30μgN/m2/d、メタン吸収量は2.8_から_4.3 mg CH4/m2/d)であった。亜酸化窒素の放出速度はこれまでの日本での報告の中で小さく、メタン吸収量は日本の森林土壌における報告例の範囲内であった。対照区と間伐区のフラックスの差を反復データに対する多変量モデルで解析した結果、天狗では、間伐区で二酸化炭素放出速度が低く、亜酸化窒素放出が高く(P<0.05)、メタン吸収量速度がやや低い(P =0.07)傾向がみられた。一方、旧宮では有意な差はみられなかった。したがって、ヒノキ林における間伐が温暖化ガスに及ぼす影響は、林分によって異なることが示唆された。
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© 2004 日本林学会
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