抄録
森林火災跡地土壌におけるCO2・CH4・N2Oフラックス‐岐阜県各務原の事例_-_○仁科一哉(名大院生命農)、竹中千里(名大院生命農)、手塚修文(名大院理学)、石塚成宏(森林総研) 1.はじめに 土壌は微生物呼吸や植物の根呼吸によるCO2排出、微生物の働きによるCH4排出・吸収やN2O排出により各ガスの大気濃度に大きな役割を担っていると考えられている。森林火災は植生や土壌の理化学性、土壌微生物に大きな影響があることが知られている。そのため土壌のガスフラックスに何らかの影響があることが考えられるが、森林火災後の土壌における温室効果ガスの包括的な観測例は未だ少なく、その多くは熱帯林や冷帯林に限られ、温帯林における観測例はほとんどないのが現状である。本研究では岐阜県各務原市で2002年4月5日におきた森林火災跡地(詳細下記)で同年7月からメタンフラックスの測定を開始し(仁科.2003)、2003年9月からはCO2・CH4・N2O測定を開始した。今回の発表では2003年9月からの測定結果を発表する。2.実験地概況岐阜県各務原市西部(北緯35°26′東経136°53′標高123m)の森林火災跡地(焼失地)と同一林分内の非焼失地を対象とした。本調査地は2002年4月5日から翌6日にかけて500haもの森林が焼失した。植生はアカマツ・コナラ・アベマキ・アラカシが優占する二次林である。焼失地はすべての樹木・下層植生は火災によって枯死し、2002年8月にはススキ・ナツハゼ・マルバハギ・サルトリイバラが焼失地に進入し、二次遷移が始まっていた。2003年の5月から11月にかけても同様の植生が観察された。3.測定項目 本研究では各サイトに3つずつチャンバーを設置し、フラックスを測定した。フラックスの測定にはクローズドチャンバー法を用いた。ガスの採取は0・10・20・40分の4回行い、CO2・CH4フラックスは0・10・20分のガスを用い、N2Oフラックスは0・20・40分のガスの濃度でHutchinson and Mosierの式を用いてフラックスの計算を行った。 F :ガスフラックス(mg CH4 m-2 d-1) ρ:ガス密度(mg m-3) V :チャンバー容積 (m3) A :チャンバー底面積 (m2) T :温度 (℃) t:ガス採取時間間隔(s) C0・C1・C2:それぞれ1回目、2回目、3回目に採取したガス濃度(m3 m-3)土壌分析はフラックス測定毎に最表層(0_-_5cm)土壌について分析を行った。分析項目は気温・地温と土壌物理性については三相組成・土壌水分量、土壌化学性についてはpH・CN比(全炭素量・全窒素量)・水溶性Al・TOC・TN・交換性NH4+・水溶性NO3_-_、土壌生物性については微生物バイオマスC・FDA加水分解活性を測定した。4.結果と考察 焼失地のCO2フラックスは非焼失地に比べ、どの月においても有意に低下していた。土壌呼吸は両サイトともに気温と高い相関が見られたが(非焼失地r=0.96、焼失地r=0.99)、Q10値は非焼失地で2.00、焼失地では2.27で温度依存性が異なった。土壌呼吸量の低下の要因の一つは樹木による根呼吸分の減少によるものであると考えられた。CH4フラックスは前報(仁科.2003)で報告したとおり、すべてのチャンバーで吸収が見られるときには吸収量が低下していたが、それ以外は有意な差は見られなかった。非焼失地で吸収が見られなかった月は土壌水分量が増加したためと考えられる。但し12月においては土壌水分量が低い、しかしこのデータは表層における水分量しか反映していないため地下水位の影響がでていると考えられた。N2Oフラックスはどちらのサイトでも検出されなかった。