日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: E12
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T11 森林をめぐる協働・パートナーシップはどこまで進んでいるのか?―現状と課題―
NPOと国有林におけるパートナーシップ形成に関する一考察
*山本 信次
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抄録
近年、「公共」概念の見直しが進む中で、様々な分野における協働・パートナーシップに基づく「公共性」の再構築が始まりつつある。 国有林はその所有の面において、「国有」であるが故、「公共性」を直ちに備えるがごとくみなされてきた。しかしながら、国有林自体が一連の改革の中で林野庁・国有林自らが「国民の森」との位置づけを再度行わなければならなかったことにも「公共性」とは何か、それは如何にして構築されるのかについて問い直されなければならない事態を迎えていることを端的に表しているといえるだろう。 こうした中で、国有林と地域住民・市民との間においてパートナーシップの構築を目指した活動が、増加しつつある。 これらの活動は、第一に森林ボランティアなどの森林整備的な活動を念頭に置いた「ふれあいの森」、第二に環境教育的利用を念頭に置いた「悠々の森」、第三にさらに包括的な活動などを含んだ「協定」締結としておこなわれるものの3つに大別することができよう。本報告においては、第一と第三の事例の報告を通じて、国有林と市民の間におけるパートナーシップ構築の現状と意義について考察するものとする。 第一の事例としての「フォレスト21さがみの森」は緑の募金法制定の記念事業として、国土緑化推進機構が発案し、東京営林局が国有林4.5haを対象地として提供したものである。同事業に関わる経費については国土緑化推進機構が提供し、森林ボランティアを通じた森林整備を行うものである。 国土緑化推進機構を含む行政サイドから提起されたこうした活動を、市民サイドが受け入れるに当たっては反対論を含む様々な議論が展開された。そこでの批判の主なものとしては「なぜ国が責任を持つべき国有林の管理を市民がボランティアとして行うべきなのか」・「森林ボランティアは森林整備を実行し得なくなってしまった人々を支援するものではないのか」というものであった。森づくりフォーラム内で繰り広げられたこうした反対論の論者が最終的に、同事業を受け入れるにいたった論拠としては「われわれが今後国有林に対して市民として物申すために、単なる外野としてではなく、対等な関係を持たねばならない。そのためには協働の実績が必要」という認識であった。国有林に「市民的な公共性」を受け入れさせていくために市民の立場から一歩踏み込んだ活動が必要との認識がそこには示されている。 また第3の事例としての自然保護協会の「協定」締結の背景には、そもそもバブル期に構想された国有林の開発計画に対して反対する地域住民から自然保護協会に対して支援要請が行われたことに始まる。自然保護協会はこれに応えて、イヌワシなどの希少動物の計画地域での生息調査などを行うことにより開発反対運動を繰り広げた。この結果、バブルの崩壊なども重なり、開発計画は中止されることとなった。 こうした経緯を経て、今度は自然保護協会と地域住民・前橋営林局の3者による森林の保護と利活用を目指した1万haにおよぶ国有林に関わる協定が結ばれることとなった。これは自然保護協会自身の「反対型運動」以外の運動形体への模索、国有林サイドの方向転換、国有林開発反対運動成功後の地元住民による対案提示の必要性などが組み合わさった結果と分析できる。 現在、国有林に対して、森林ボランティア・自然保護運動・地域ニーズなどの多様な期待がもたらされると同時に、これまでの国有林のあり方に対する批判も寄せられている。こうした中で、国有林に対して、「反対」・「告発」などの従来型社会運動の形態のみならずパートナシップの構築を通じて国有林を「国民の森」として、すなわち国民がその「公共性」を納得しうる存在へと転換させようとする取り組みが市民サイドから始まりつつあるといえるだろう。しかしながら国有林サイドが、こうした市民との協働を「パートナシップ形成をつうじた国有林の公共性の再構築の場」と捕らえているかどうかについてはいささか疑問が残る。むしろ「フォレスターの論理」に基づいて、国民・市民を「啓蒙」しようとする姿勢の強さを感じざるを得ない。今後のパートナーシップ形成の推移を見守ると同時に、「フォレスター」が専門家としていかなるスタンスで「協働の場」に参画すべきかについて検討する必要があるものと思われる。
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© 2004 日本林学会
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