抄録
日本の自然公園の目的は、優れた自然景観を保護することにあるが、保護対象には人為の加わっていない原生的景観とともに、人為によって維持されてきた文化景観も含まれる。周知のように自然公園制度における自然保護は、主として保護対象へ悪影響を及ぼす人為活動を規制することによって行われる。しかし、農林業活動によって形成される文化景観を、その形成主体である農林業の維持を通して図ろうという考え方は、これまでの自然公園制度の枠組みには希薄であったと言わざるを得ない。本研究では、ドイツの自然公園を対象に、景観保護における「自然公園協会」の意義を明らかにした。その結果、ドイツの自然公園では、景観形成の担い手として農林業を位置づけ、農林業の活性化を通した地域景観の保護を図ろうとしていた。その際の重要な役割を演じるのが自然公園協会である。自然公園協会は地域の主体を有機的に結びつけることによって、景観保護に関わる様々な事業を立案し実施している。文化景観の保護のためには、これまでの規制を中心とする保護から、農林業という景観形成主体の位置づけを明確にし、地域の主体が連携しながら保護対策を実行していくという地域協働への変革が求められる。上位下達式の規制型の自然保護政策では不充分であり、地域の諸主体の連携を通した活動が不可欠といえる。