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第115回 日本林学会大会
セッションID: E28
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林政 III
京都府における林業財政の変遷と現状
*野瀬 光弘
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キーワード: 京都府, 林業財政, 事業, 林道, 造林
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抄録
1.はじめに 近年、日本経済全体の落ち込みとともに、国や地方自治体の財政危機は深刻さを増している。国の国債残高だけを見ても、1993年度の246兆円から2003年には518兆円と急増してしまった(川北, 2003)。他にも、地方自治体、特殊法人、第三セクターなどのように巨額の債務を抱えている組織は数多くあり、特に地方経済の落ち込みに拍車をかけている。このまま雪だるま式に債務が膨らめば、今よりも財政の硬直化が進行し、事業の可否を厳密に選別せざるを得なくなる。そうなれば、限られた財政のもとでの効率的な事業の実施が求められる。2.課題と方法 1980年代中頃まで林業財政については、経年的な推移、補助金の配分、財源の内容などの概論の他、一道七県を対象とした地方自治体(以下では、自治体とする)の財政が調べられた(船越, 1987)。現在とは異なって、当時は円高不況により経済が落ち込んでおり、歳入と歳出の両面から各自治体の林業財政が分析されている。ここでは自治体内における林業・林産業の位置づけが大きく異なることなどから、その違いに応じた様々な議論が行われた。他にも、群馬県上野村における基盤整備事業の内容を紹介し、歳入・歳出内訳の推移をあげた上で、自主財源の乏しさがいずれは莫大な建設投資の継続を困難にするとの見解が示された(紙野, 1982)。先行研究では、自治体の林業財政の内容と制度的な側面は論じられているが、事業の効率性は言及していない。そこで、本研究では京都府を対象として、決算ベースの林業費と事業との経年的な推移をたどるとともに、その変化の要因を明らかにする。なお、ここでいう事業は量的変化が把握可能な造林と林道に限定した。3.林業費の内容 1960年度から2000年度にかけて5年ごとに決算ベースの主な林業費の比率を見たところ、1990年度は林業総務費が多くて特殊であるが、その他はすべて治山費がトップの位置を占めている(図1)。続いて、林業総務費と林道費が2、3番目で、さらに造林費という順番である。このうち、林業振興指導費の比率が最も変動が大きく、1960年度の3.2%から1985年度の19.8%までの幅がある。また、林道費も最も小さい1990年度の9.4%と1995年度の21.1%では約2倍の開きがある。4.林業費と事業との関係 事業の効率性を推測すべく、単価を算出して1960年度から2000年度にかけての変化を確認した。ここでいう単価とは、各事業量を林業費全体で割って求めたもので、造林は1ha当たり、林道(新設)は1m当たりの金額である。今回は1960年度から2000年度まで5年ごとに単価を算定し、1960年を100とした指数の推移を表1に示した。造林は林道に比べて指数の上がり方が圧倒的に大きく、特に1990年度から1995年度にかけて3倍近く増えた。林道も同期間に約4倍に急増しており、事業費の算定基準に何らかの変化が起こったと考えられる。さらに、林道事業については詳細な変化を調べるために、1980年度から2001年度にかけて林道開設、改良、舗装の区分ごとに単価を算出した。そのうち最大シェアを占める開設は、1991年度の69,470円/mから1992年度の100,918円/mへと1.5倍近くに跳ね上がるという大きな変化が読みとれた。そこで、1980年度から1991年度、1992年度から2001年度に分けて事業ごとの内訳を平均で見たところ、開設量は23.8kmから14.1kmへと減少した一方で、事業費は12.9億円から21.9億円へと増加した。そのため、単価は55,256円/mから159,332円/mへと3倍近く拡大した。また、改良は量が3.1kmから5.5km、費用が0.9億円から3.6億円、単価は28,424円/mから61,103円/mへと推移した。なお、舗装は両期間で量、費用とも大きな変化は認められなかった。 以上のように、林道費は事業量の減少が費用の増大で補われ、1990年代は比率が20%前後で維持していった。将来、事業の費用対効果が重視されるようになれば、林道費の高単価が問題になることも考えられる。1991年度と1992年度の間に起こった単価上昇の要因解明、造林事業の量と費用の関係検討などは今後の課題である。
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© 2004 日本林学会
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