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第115回 日本林学会大会
セッションID: E27
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林政 III
明治期における学校林の設置
*竹本 太郎
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抄録
1.目的
 明治期における学校林について詳細に調べられたものはこれまで殆どない。本稿は、明治地方自治制が生み出した、自然村と行政村の二重構造の中で、1)なぜ学校林設置が導入され、2)どのように普及し、3)どのような役割を果たしたのか、を明らかにする。
2.方法(時期区分)
 市制町村制により合併町村が行政村としてあらわれた時期から、日露戦後の地方改良事業を通じて行政村が定着していったとされる時期までを研究の対象とする。ただ、それ以前から学校林は設置されているため、学制発布から市制町村制までを第1期(前史)として扱うことにした。第2_から_6期については、明治政府の学校林設置施策の変化を追う形で区分した。まず、学校基本財産制度が始まった地方学事通則制定以降を第2期とし、次に、文部省からの「学校樹栽日」通達以降を第3期とした。さらに、国有林野法による小学校基本財産への不要存置国有林野売り払いをはじめとする一連の動きを第4期とし、その中でも特に日露戦争を機に普及した学校林設置を第5期とした。最後に、地方改良事業に伴う部落有林野統一を通じて学校林が設置されていく時期を第6期とした。この期間における学校林設置を、収集した資料をもとに、1)設置政策の変遷、2)設置の実態、から明らかにする。
3.考察
 自然村と行政村の二重構造の中で学校林設置がどのようになされたのかを整理して考察とする。第1期において自然村は学校設置主体であり学校林土地所有者であった。この段階では学校林は自然村財産と未分化な状況にあったといえる。ここまでを「自然村有学校林期」とした。第2期の町村合併により学校設置主体の中心は行政村に変わり、学校設置主体と学校林土地所有者の乖離が生じた。そして、地方学事通則により学校基本財産が設けられ、学校設置主体が学校のために財産を設置できるようになり、学校林は学校基本財産として設置されるようになる。第3期になり、文部省により学校樹栽日が導入され学校林設置が奨励されるが、両時期において、適当な土地を持つ行政村は学校林を設置したものの、それ以外は自然村有地に樹栽して学校基本財産を造成するという方法が一般的であった。ここまでを「自然村・行政村有学校林並立前期」とした。第4期、文部省と農商務省山林局が連携して行った不要存置国有林野の小学校基本財産への売り払いによって国家から行政村へ林野が移転し、行政村による学校林所有が増加する。一方で自然村有地を用いた学校林設置も引き続き行われる。こうした状況は、第5期における日露戦争記念学林の設置においても同様である。学校設置主体と学校林所有者の基本的な構造に変化はなかったと思われるが、国有林野からの土地移転がそれまでと大きく異なるので、ここまでを「自然村・行政村有学校林並立後期」とした。第6期の地方改良事業期になると、学区に部落有林野を統一して、学校林が設置されるようになる。国家からの移転も引き続きおこなわれている。したがってこの時期を「自然村有・学区有・行政村有学校林鼎立期」とした。このように、明治地方自治制が定着する過程において学校林という財産を根底にした地域社会が自然村と行政村の中間領域に生まれたのである。
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© 2004 日本林学会
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