日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: I09
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動物
トベラ立木に穿孔するビロウジマコキクイムシの生態
加害様式と随伴菌相
*梶村 恒升屋 勇人
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抄録

ビロウジマコキクイムシ(以下、ビロウジマ)は、樹皮下穿孔性キクイムシ類の1種である。近年、愛知県知多市において、その穿孔を受けたトベラの「立ち枯れ」が確認された。これは、世界で初めての例である。我々は、その枯死機構を解明するために、2001年度から様々な研究を進めてきた。2003年度は、加害様式や随伴菌相などに関して、より詳細な調査を行ったので、その結果を示す。 枝枯の発生状況については、まず発生消長と発生頻度を調べた。3年間で初めて調査した3月に、枝枯の発生は最大となった。そして、これまでと同様に、秋季に増加した。また、72本(21%)の個体に、枝枯が発生した。頻度は1回が多く、最大4回であった。連年発生木は35本(49%)であったが、隔年発生木は存在しなかった。これらの結果から、ビロウジマは年数化であると考えられ、特定の衰弱した個体に集中的に加害していることは間違いない。過去に穿孔されたものの枯死していない微害部については、毎回詳細に調査した。これは、2001年9月17日に、長さ約1mの範囲で9個の穿入孔を確認したものである。その結果、微害部は不変であった。2年後も、新しい穿孔は受けなかった。激害部が約1ヶ月で急死するのとは対照的である。 また、樹体全体に占める枯死部の割合も調べた。0%(健全木)、<50%、50%<、100%(枯死木、緑葉なし)、の4段階に区別した。2003年度も12月に確認した(2001年度からの継続調査)。その結果、35本の段階が進行し、24本が100%となった。2003年度も、0%から100%になる場合はなかった。やはり、数年の加害が蓄積した結果、枯死木となるものと推察される。 ビロウジマの生態特性に関しては、まず羽化消長と密度を調べた。調査地において、2003年5月9日および7月13日に、最近枯死した枝を採取し、名古屋大学構内(愛知県名古屋市)に持ち帰った。供試枝は、長さ50_cm_に切断し、それぞれ5本および2本を塩化ビニル製の円筒容器(蓋には網をつけた)に投入した。その後、容器内で羽化した成虫を、少なくとも1週間に1回、採集して計数した。その結果、成虫の羽化は、2_から_3ヶ月間続いた。急増後に漸減する一山型となった。100_cm_2あたりの総成虫数は、5月および7月採取枝、それぞれ66および44頭となった。2001年度に調査した幼虫密度から考えると、生残率は10%前後であると予想される。 また、非発生地における加害の可能性も検討した。同じ条件の供試枝を、容器に入れずにそのまま、名古屋大学構内に自生しているトベラ1本(孤立木)の地際に静置した。樹高は3.5m、地際の直径は5.5_cm_である。葉の異常の有無を継続観察した。その結果、調査地でみられるような枝枯は発生しなかった。供試枝から羽化した成虫数は、合計1425頭と推定された。この程度の密度では、不十分であったのかもしれない。 ビロウジマの体表および坑道からの菌の分離に関しては、2003年度は、成虫に加えて、その坑道(母孔)を供試した。4月24日、調査地において、穿孔枝(木屑が排出されているもの)を採取した。葉はすでに変色していた。外樹皮を剥がし、成虫を捕獲した。「交尾前(穿孔初期)」が雄26個体と雌29個体、「交尾後(産卵中)」が雌雄各30個体である。坑道からは、2つの成育段階ともに、内樹皮と材の小片を各50個切り出した。表面殺菌は、70%エタノール2分、1%次亜塩素酸1分、滅菌水1分の順で行った。各分離源を1%MA培地の上に置いた。培養条件は、15℃全暗である。なお、分離結果に性差はなかったので、まとめて分離頻度を算出した。その結果、「交尾前(穿孔初期)」の内樹皮と材からは、ともに7種類の菌が分離され、6種類が共通していた。成虫からは、そのうち4種類(Fusarium solani、Penicillium sp. 1、White yeast sp. 1と2)が検出された。分離頻度は、内樹皮と材では、White yeast sp. 1(46%と44%)、成虫では、White yeast sp. 1と2(18%と20%)が高かった。一方、「交尾後(産卵中)」になると、内樹皮と材では、菌相が変化するとともに、F. solaniの分離頻度が急増した(74%と58%)。この結果は、F. solaniが坑道内に定着したことを示唆している。また、成虫では、Penicillium sp. 2が加わり、White yeast sp. 1が高頻度(60%)に分離された。この傾向は、2001年度の分離結果と同様であった。F. solaniは多くの植物の病原菌であるが、主要なアンブロシア菌としても報告されている。また、酵母類がキクイムシ類の発育に重要であるという指摘もある。今後は、分離された菌類の役割(トベラに対する病原性やビロウジマに対する栄養価)を実証したい。

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© 2004 日本林学会
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