日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: I08
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動物
タマバチの一種 Aphelonyx glanduliferae 単性世代における生存過程のコナラ個体間変異
*伊藤 正仁
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抄録

 コナラの葉上にゴールを形成するタバチの一種Aphelonyx glanduliferaeの単性世代(以下,タマバチ)を対象に,単木上の生存過程の年次間変異を調査するとともに,ゴールサイズと寄生回避の関係について解析した。さらに,複数のコナラ上でタマバチの生存過程を調査し,そのコナラ個体間の変異を検討した。
 調査は,愛知県名古屋市にある名古屋大学東山キャンパス構内の二次林で行った。1本のコナラ成木を経年調査木(T1)として選定した。1999_から_2003年の10月下旬_から_11月上旬に,ゴールの形成されたシュート6_から_10本を採集し,各シュートにつき10_から_30個のゴールを調査対象とした。また,本種のゴールには成熟後に葉面から落下するものがあるため,各年37_から_93個の樹冠下に落下したゴールも調査した。また,T1周囲のコナラ個体におけるゴールの形成状況を把握するため,T1を中心とした半径50 m内に生育しているコナラの樹冠下に,50×50 cmの方形枠を3個ずつ設置した。そして,2004年1月上旬に方形枠の中に落下していたゴールを計数した。さらに,T1以外のコナラ個体におけるタマバチの生存過程を明らかにするために,2003年11月上旬に樹高4 m以下のコナラ6本(T2_から_T7)からゴールを採集した。採集したゴールは直径を計測し,内部の状態からタマバチの生存率と死亡要因を記録した。
 樹冠内におけるタマバチの生存率は年次間で異なっており,1999年には18%,2000_から_2003年には2%以下であった。樹冠下から採集したゴールにおいても,タマバチの生存していたゴールの割合は5%以下であった。T1樹冠下における0.25 m2あたりの落下ゴール数は,50.3±8.3個(平均値±標準偏差)であった。T1を中心とした半径50 m内には11本のコナラが生育していたが,そのうちT1に比較的近い6本の樹冠下からゴールが採集された。しかしながら,0.25 m2あたりの落下ゴール数は,T1に比べ,きわめて少なかった。このことから,T1へのタマバチ成虫の移入頻度は低いと考えられ,T1上のタマバチ単性世代においては,2%以下の生存率が通常であることが示唆される。
 タマバチの主要な死亡要因は,いずれの年においても寄生蜂の攻撃であり,これによる死亡率は60%以上であった。次いで主要な死亡要因は,樹冠内ではゴールの発育不全,樹冠下では病気であった。しかしながら,これら2つの要因によるタマバチの死亡率は年次間で異なっており,これらの要因が主要な死亡要因ではない年もあった。発育不全ゴールが寄生対象とはならないことを考慮すると,タマバチの生存過程において,寄生回避は常に重要であると考えられる。寄生を回避したゴールの割合は,直径の大きなゴールほど高かった。寄生回避の有無にはゴール直径のみが関係しており,年,採集場所および交互作用の影響は有意ではなかった。このことから,寄生回避におけるゴールサイズの効果は,年次間で大きな変化はないものと考えられる。
 タマバチの生存率には,コナラ個体間で有意な差はなかった。主要な死亡要因はT1における結果と同様,寄生蜂の攻撃とゴールの発育不全であったが,これらによるタマバチの死亡率はコナラ個体間で異なっていた。T1,T3における主要な死亡要因は寄生蜂の攻撃であり,約80%のタマバチ個体が寄生を受けていた。これに対し,T2における主要な死亡要因はゴールの発育不全であり,75%のゴールが発育不全であった。
 タマバチ単性世代において,ゴールの発育不全は寄主植物の質的低下によって引き起こされると考えられている。したがって,ゴールの発育不全による死亡率の,年次間,コナラ個体間の違いは,コナラ個体における質的状態の変異を反映したものと考えられる。また,経年調査によっても示されたように,ゴールサイズは寄生回避に関与しており,寄生回避におけるサイズの効果は比較的固定的なものと考えられた。したがって,本研究では解析することができなかったが,コナラ個体間でゴールサイズが異なれば,これもタマバチの生存過程の変異をもたらす可能性がある。

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© 2004 日本林学会
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