日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: I11
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動物
アカマツ林におけるキノコ集団の属性がキノコ食昆虫群集の構造に及ぼす影響
*山下 聡肘井 直樹
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抄録

_I_ はじめに ハラタケ目の子実体(以下,キノコ)の内部を幼虫が摂食する昆虫(以下,キノコ食昆虫)群集は,多様な昆虫から構成されている。キノコ食昆虫群集の資源利用様式は,キノコの時間的な存在様式から影響を受けていると考えられる。時間的な存在様式のひとつに,ある時点に発生していたキノコの多様度や現存量といったキノコ集団の属性における季節性がある。本報では,キノコ集団の多様度や発生本数,現存量がキノコ食昆虫群集の構造に及ぼす影響を解析した。_II_ 材料と方法 調査地は,愛知県東加茂郡稲武町にある名古屋大学大学院生命農学研究科附属演習林である。調査は,1999年7月1日から2002年7月24日までの約2週間に一度(計59回),アカマツ林内に設置された3ヶ所の方形プロット(10 m × 10 m)内で行った。この林分は,アカマツが優占し,その他にカラマツやシロモジがみられる。プロット内に発生したキノコの一部を持ち帰り,キノコの属と湿重を記録した。その後,キノコの内部に生息していた幼虫を実験室において羽化させ,成虫を科まで同定した。キノコ集団の属性として,各調査日において採集されたキノコの本数と現存量(湿重),属数および多様度(Shannon-WienerのH'とSimpsonのD)を,また,キノコ食昆虫群集の属性として科数,個体数,多様度を考え,これらの間の関係を,ピアソンの相関係数を用いて解析した。_III_ 結 果 キノコは,調査期間中の5月から12月にかけて発生し,計3563本発生した。発生本数の順に,クヌギタケ属,ホウライタケ属,チチタケ属,イッポンシメジ属,モリノカレバタケ属が優占していた(発生本数 > 200本)。これらのうち,2457本のキノコを採集し,440本のキノコから,3目16科4616個体の昆虫が羽化成虫として採集された。個体数の順に,ノミバエ科,チョウバエ科,ショウジョウバエ科,タマバエ科,キノコバエ科が優占していた(個体数割合 > 5%)。キノコ食昆虫は,1999年は7月から10月まで,2000年は6月から11月,2001年は5月から10月まで出現し,2002年は5月には出現していた。 キノコ集団に含まれるすべてのキノコの本数と,キノコ食昆虫群集の多様度の指数との間には,有意な正の相関関係が認められた。また,すべてのキノコの現存量(湿重)が増加するにしたがって,キノコ食昆虫群集の個体数,科数,多様度が増加した。さらに,キノコの属数が増加するにともない,昆虫の科数も増加した(r = 0.332,P = 0.045,n = 37)。一方,キノコ集団の多様度と昆虫群集の多様度との間には,キノコの本数,現存量いずれにもとづいて計算した場合でも有意な相関関係は認められなかった(本数:H',r = 0.265,P = 0.113;Dr = 0.172,P = 0.307,現存量:H',r = 0.210,P = 0.212;Dr = 0.115,P = 0.497)。_IV_ 考 察 本研究の結果,調査地のキノコ食昆虫群集のある時点における群集の属性を示す値はすべて,キノコ現存量が増加するにしたがって上昇することが明らかとなった。個々のキノコの現存量が増加すると,そこにみられるキノコ食昆虫群集の属性の値も増加することから,ある時点での個々のキノコの現存量の変異が,キノコ集団全体の現存量の変化を通じて,昆虫群集の構造に影響を与えているものと考えられる。 その一方で,今回の解析結果はまた,キノコの本数が増加するにつれて,群集の多様度も増加する傾向を示していた。さらに,キノコ食昆虫の科数は,キノコの属数が増加するにしたがって増加していた。 このように,キノコ集団の属性とキノコ食昆虫群集の属性との間には,いくつかの組み合わせにおいて相関性があることが明らかとなったが,そのなかでも,キノコの現存量のみが,昆虫群集のすべての属性と正の相関関係にあった。このことから,キノコの発生量の大きな森林では,多様な種からなるキノコ食昆虫群集が形成されることが予想される。今後は,キノコ食昆虫群集の構造を決定する要因をより詳細に明らかにするために,キノコの質と量の相対的重要性を明らかにしていく必要がある。

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© 2004 日本林学会
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