日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: I14
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動物
野ネズミの生息と林内環境について
*石井  徹尚河原 輝彦
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キーワード: 野ネズミ, 林内環境
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抄録

_I_ はじめに近年、人々が林業に求める機能は変化し、育成単層林の健全な保育・管理に加え、環境に配慮した針広混交林施業、複層林施業など、より多様な森林施業に移行している2)。しかし、森林環境の改変が野生動物の生息にどのような影響があるのか、あまり知られていないのが現状である。そこで森林の状態や豊かさを測る測定方法として小型哺乳類も調査することにより、森林の生物多様性について把握することができるのではないかと考え、林相の違う林分で野ねずみの生息調査を行った1)。本研究では、実際に野ねずみの生息状況に差異が現れたSiteの中で人工林に焦点を当てた。また、野ねずみがハビタット選択に大きく影響を受けるといわれている林床植生に注目した。また、土壌硬度計を用い林床状態についての解析し、それらがどのように関与したのか検討したので報告する。_II_ 調査地と調査方法 調査地は、東京都西多摩郡奥多摩町にある東京農業大学奥多摩演習林内の狩倉山(海抜1,452m、Site-A,B)。山梨県北都留郡小菅村にある東京都水源林(Site-C,D)また、全Siteとも北斜面中腹にあり上木はスギ、ヒノキの人工針葉樹林である。ねずみの生息調査を行った標高は約700mから1,450mである。捕獲調査にはスナップトラップを使用し、各Site内に約10m間隔で60個ライン状に任意で設置した。また、調査期間は2002年6月から11月で毎月1回1日を基本に行い、trap nightは、各Siteで360、合計1,440であった。トラップの付け餌には、生ピーナッツと生サツマイモを半数ずつ用いた。また、トラップ内外にきな粉を適量添加した。植生調査は、2003年9月に行い各Siteに1個所ずつコドラート(10m×10m)計4ヶ所設定し、範囲内の毎木調査、種の同定、植被率、群度について行い、上木の開空度については魚眼レンズ付デジタルカメラ(COOLPIX 995)で全天空写真を撮影し、画像解析ソフト(Gap Light Analyzer)を用い算出した。林床の環境解析は、土壌硬度をSite内で任意の5地点を測定し、その平均値を算出した。土壌硬度の測定には山中式土壌硬度計を用いて行った。また、A0層の厚さはSite内において任意の5地点を測定し、その平均値を算出した。_III_.結果 3.1野ねずみの捕獲結果 以下の表-1に示した。表-1 捕獲結果(捕獲数)    Site-A Site-B Site-C Site-Dアカネズミ 1     1    5    5ヒメネズミ 3     9    2    13カゲネズミ               2ヒミズ                 73.2下層植生  林相や人工林の管理状態により林床に生育する植生量に違いが見られたことから今回、植生調査を行った。_丸1_林床植生の被覆度木本層ではSite-D,A,C,Bという順に被覆度が高くなり、草本層を含めた全体の被覆度はSite-Dが最も高く、C,A,Bの順に被覆度が高くなるがそれらにあまり違いはなかった。_丸2_林床植生の植生量(被覆度×植生高)木本層、草本層を含めた植生量についてSite-Dが最も多く、他3Siteでは下層植生が林床に見受けられる程度でそれらも量にはほとんど違いは無かった。また、最大植生高は4mであった。3.3林床状態の解析 _丸1_土壌硬度土壌硬度について検討したが捕獲数との間には、はっきりとした関係は見られなかった。_丸2_A0層厚A0層厚について検討したが捕獲数との間には、はっきりとした関係は見られなかった。_IV_.まとめ下層植生と野ねずみの生息について見ると、植生の被覆度の増加、下層植生量が増加すると野ねずみの捕獲数が増加する傾向が見られた。このことから、人工林の管理状況の違いによる下層植生の質的、量的差異は野ねずみのハビタット選択に大きな影響を与えていることがわかった。しかし、土壌硬度とA0層厚の二点については、捕獲数との関係は見られなかったことから、野ねずみの生息には、下層植生がより影響を受けているという事が示唆された。このような観点から、人工針葉樹林であっても下層植生の多様性が保たれているような林内環境に導くことにより野ねずみに好適な環境を提供できるものと考えられた。_IV_ 引用文献(1)石井徹尚:53回日林関東支講53:153-154,2001(2)河原輝彦:林業技術579:20-23,1990,6

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© 2004 日本林学会
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