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第115回 日本林学会大会
セッションID: J03
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林政 II
ブラジルにおける多様な森林管理形態を目指した政策の現状と課題
*福代 孝良
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抄録

1.背景と課題
ブラジルにおける森林政策の展開は、開発すべき「未利用地」としての森林が「経済的利用」「保護」「生活」のための森林へと定義、設定されていく過程と捉えることができる。本研究では、これらの政策の中で、制度的にどのように森林が位置付けられているのかを明らかにし、今後の課題を探る。
2.農地改革政策と森林(未利用地としての森林)
ブラジルでは農地改革政策が1964年土地法を中心に進んできた。大規模な未利用地は農地改革の対象とされ、高額の農地税がかけられた。さらに家族規模農業者による利用に対して占有権や時効取得等が認められてきた。この原則は、結果的に自発的な土地占有による農地獲得運動を促すものとなっており、現行の憲法にも引き継がれている。天然利は「未利用地」とされる傾向が高く森林破壊が誘発された。こうした状況の中、天然林を未利用地ではなく、管理・保護・利用されるものとして定義する制度は、国有地を中心とした保全地域制度と私有地における法定保留林、永久保存林である。
3.国有地中心の国家保全地域システム(以下、SNUC)
保全地域は2000年にはSNUC法により定義されておりることになった。2003年これら保全地域は連邦・州を含めても全国土面積の8.5%であり、法定保留林面積と比べると極めて少ない。SNUCは統合的保護地域と持続的利用地域の2種類に分けられ、森林の持続的利用も保障している点が特徴的である。国立公園(保護地域)と国有林(利用地域)が中心であり、それぞれ全保全地域の3割以上を占めている。現在、持続的利用地域である国有林と採取保留地域(以下、RESEX)が中心に拡大されている。RESEXは正式な地権を持たず伝統的に森林を利用してきた地域住民の利用を保障するために作られた制度である。いずれも国有地であるが、RESEXは地域住民中心に作成される利用計画をもとに住民組織へ管理利用権が委譲され、国有林はSNUC法により、住民や研究者、NGOを巻き込んだ管理委員会と共同での森林計画策定が奨励されている。このように保全地域の拡大は単なる政府の管理面積の拡大ではなく、政府が所有の確定を保障し、地域住民の共同利用や社会参加による管理・利用を保障していく過程と言える。
4.私有地中心の森林管理制度
森林を規定する最も重要な制度のとして、1965年森林法を中心に規定される法定保留林・永久保全制度があげられる。法定保留林はアマゾン地域において、土地面積の8割の設定が義務付けられ、アマゾン以外では土地面積の2割から5割の設定が義務付けられる。永久保存林は厳密に保護されるべき地域が設定される。さらにアマゾンではいかなる森林伐採においても森林計画や伐採許可が求められ、森林計画制度が重要となる。これらの制度は、私有地における森林を保護のための永久保存林、利用のための法定保留林とそれぞれ定義づけるものであり、それぞれ法律上「未利用地」とはならない。しかし、管理は所有者に任されており、有効に機能しているわけではない。現実にアマゾンの3割以上の森林計画が存在するパラ州では、2000年時、森林計画制度の再審査過程において、9割以上の事業地において法定保留林設置に関する不備があり、同じく9割以上の事業地において土地の境界確定に不備があった。その結果8割以上が中断もしくは却下された。
5.所有から管理・利用中心への森林制度
歴史的な不平等な土地集中からも所有権の絶対性ではなく、実質的な管理・利用者の権利が優先される。このような背景から単純に所有を中心とした規定は困難であり、所有形態にかかわらず森林・土地に対する権利は、実質的な管理・利用主体へ分配されている。管理・利用を規定するものは森林計画や利用計画であるが、策定を最も必要としているはずのアマゾン地域では先行研究および各報告によると土地関連を中心とした猥雑な行政手続き、森林計画策定のための技術的費用が重荷となり計画策定、実施が困難な状況にあることが推察できる。保全地域制度においても財政的な見通しもなく、政府の保全地域拡大も極めて困難な状況といえる。
6.まとめ:今後の課題
誰が所有し、誰がその管理・利用を進めるかについての法的枠組みは出来上がりつつあるが、国有・私有にかかわらず、この制度が機能するかどうかの鍵は、森林計画の策定・実施にある。今後、森林計画の策定実施にかかわる取引費用・管理費用、管理負担がそれぞれの地域でどのように各主体へ分担されているのか、また計画における共同体の役割等を検証していくことが必要である。

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© 2004 日本林学会
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