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第115回 日本林学会大会
セッションID: J04
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林政 II
拡大造林に対する造林補助制度の計量経済学的分析
*藤野 正也
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抄録

1.課題と方法
 資源造成は戦後日本林政の中心的課題の一つである.戦後に造成された林地は1000万haにおよび,その大多数は,広葉樹林を切り開き針葉樹を植える拡大造林によって造成されてきた.そして,これら造林地の多くは,民有林にあり,造林補助事業によって補助がなされきた.そのため,造林補助事業は民有林における資源造成に大きな役割を果たしてきたと考えられている.
 しかし,現実的にみて造林補助事業が資源造成に対して効果があったのか否かについての研究は,これまでほとんど行われていない.また,いかなる要因が資源造成に影響してきたのかについて,実証的に明らかにした研究も少ない.
 本研究は,拡大造林による資源造成が,どのような要因によって,どの程度影響を受けてきたのかを計量的手法を用いて明らかにし,造林補助事業が拡大造林による資源造成に及ぼした影響について計測を行うことを課題とする.
2.造林面積の推移
 1955年から2000年までの造林面積累計を見ると,民有林拡大造林面積は582万ha,民有林再造林面積は187万haであり,民有林造林の大部分が拡大造林によって行われてきたことがわかる.樹種別に見ると,1971年以前はヒノキと比べスギの拡大造林が多かったものの,それ以降は同程度となっている.
3.造林補助事業の概要
 造林補助事業は1951年に制定された森林法によって定められ,民有林で行われる植林,間伐等の費用に対して国が30%,都道府県が10%の補助を行うこととなっている.しかし,1954年に査定係数制度が導入され,事業区分ごとに定められた査定係数により,実質的な補助率が変わる仕組みになっている.また,算出に当たっては,実際の経費ではなく,あらかじめ各都道府県で定められた標準単価をもとにしている.補助額の基本的な算出は次式に従って行われる.
造林補助金=標準単価×面積×査定係数×補助率
従って,作業内容が同一であっても,事業区分が異なれば,実質的な補助率は異なり,補助金額も大きく違ってくる.事業区分,査定係数等の値はこれまでに何度も改訂されてきたが,基本的な算出方法は変わっていない.
4.拡大造林の分析モデル
拡大造林の分析モデルを以下のように定式化する.
スギ拡大造林面積=F(期待スギ立木価格,労賃,苗木代,補助率,薪炭価格,広葉樹パルプ材価格) …(1)
ヒノキ拡大造林面積=F(期待ヒノキ立木価格,労賃,苗木代,補助率,薪炭価格,広葉樹パルプ材価格) …(2)
 拡大造林は,造林時点での収入を期待するだけではなく,将来の収入をも期待して行われる.拡大造林では,主には前生樹を伐採し,その伐採跡地にスギやヒノキを植える.そのため,造林時点の収入は前生樹の販売による収入であり,将来の収入はスギ,ヒノキの販売による収入である.前生樹は薪炭またはパルプ材として販売される.将来の収入は,現在の立木価格を参考にして算出される.このことから,拡大造林面積には薪炭価格,広葉樹パルプ材価格,および将来の期待立木価格が影響を与えていると考えられる.
 また,前生樹の伐採,および植林に関する労賃,苗木代も拡大造林面積に影響を与えていると思われるが,これらに対して補助金が支払われることから,補助率も関連していることが推測される.
 以上のことから,(1),(2)式をもとに計量的分析を行い,拡大造林による資源造成に対して造林補助事業が与えた影響について計測を行い,造林補助事業の果たした役割について考察を行う.

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© 2004 日本林学会
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