日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: J13
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経営 II
揺らぎを考慮した朝日の森の価値評価
*呉 守蓉箕輪 光博
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抄録

揺らぎを考慮した朝日の森の価値評価○呉 守蓉・箕輪光博(東大農) 森林の価値はその減少と共に意識され始め,森林の消失が進むにつれてその価値は飛躍的に高くなっていく。森林の価値の評価に当たっては,時間的,空間的,意識形態的な三つの側面を考慮した多元的な視点が不可欠である。この三つの側面は互いに連動している。特に,人々の意識や価値観,経営観などが時間と共に変化すると,それに対応して評価値も変化することになる。実際,現在のような経済不況下では環境の価値は軽視される傾向がある。一方,朝日の森は社会資本であり,計画的に経営もしくは管理が行われる限り,その資本価値は永続的に存在するはずである。その意味で,今や私たちは,環境の持つ諸価値を可能な限り社会に向かって明示し,そのための資本価値の計測方法を確立し,次世代の人々を視野に入れた森林管理の体制作りを進める必要に迫られているのである。そこで,これまでの評価方法と箕輪の資本評価論を結合することにより,環境経済論的,森林計画論的観点及び人間の環境意識における揺らぎの観点を総合した新しい資本評価の方法を検討する。 昭和54年7月,「森林環境基地」としての「朝日の森」が滋賀県朽木村内の朝日新聞社有地に完成し,運営を開始した。朝日の森は,人間と自然とのふれあい場である。毎年大勢の人が朝日の森を利用し,森林体験をしている。朝日の森の総面積は約150ha,標高は182_から_403mで,そのほとんどが広葉樹の二次林あるいはスギの造林地となっている。評価方法として,まず,トラベルコスト法(Travel Cost Method,TCM)を用いて朝日の森の1996年の平均純支払意志額EWTPを求める。次に,箕輪の揺らぎを配慮した資本評価理論を応用し,新たな視点から朝日の森の価値を評価することを試みる。箕輪は,従来の資本還元価をラプラス変換であるとし,フーリエ変換の観点から平田の評価法に依拠しながら自然・経済環境の揺らぎを考慮した動態な資本評価法(箕輪法)を提案した。 朝日の森は1978年から始まり,2003年に閉鎖となったが,この間,人々と森林とのふれあい場として,そのレクリエーションの機能は25年間にわたって発揮されてきた。そこで,本稿では,朝日の森の管理運営期間をu=25年とし,その運営をどのくらいのスパンで見るかを周期Tの波動で表現することにして,その場合の資本価値を計算することにした。トラベルコスト法により求めた1996年の平均純支払意志額EWTP(2515円)を連年のEWTPと仮定すると,レクリエーションからみた資本価値 が計算される。この場合θは運営期間uと周期Tの比βで表される。 評価結果として,例えば,β=1の場合,つまりT=25年のときは,φ=0となり,朝日の森の価値はゼロとなる。これは,朝日の森が閉鎖され,持続的利用が途絶えたことを意味している。β=0の場合,Tは無限大になるのでφ=1となる。この場合は,朝日の森を大切に思う心が永久に存続するので,理論的には,レクリエーションからみた資本価値は最大値になる。それ以外の場合は,βは0_から_1値をとり,上記の極端な場合の中間の状態を表す。一例を挙げれば,β=1/2の時は係数φは約0.64となる。この時周期Tは50年であるので,これを意識の面から考えると朝日の森の経営を50年先まで考えた場合には資本評価値は最大の場合の64%に評価されていることを意味する。人間の意識面をみると,社会経済発展の波にのって人類の環境意識や価値観は絶えず変動している。そこで,森林の価値評価に際してこの意識面を考慮するに当たって,箕輪の揺らぎを配慮した資本評価理論を応用し,新たな視点から朝日の森の価値を評価することを試みた。

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© 2004 日本林学会
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