日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: J18
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経営 II
近赤外反射の季節変化を利用した,衛星データによるスギ・ヒノキの判読
*弓場 憲生
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抄録

 精度の高い植生図を簡便に作成したいという行政現場からの要望を受けて,衛星リモートセンシングを利用したスギとヒノキの分類を試みたところ,使用するデータによって分類精度に大きな差があることが判明した。 本報告では,広島県立林業技術センターで保有している四季の衛星データを用いて,スギとヒノキの分類精度を比較した結果から,分類に最適な時期のデータ(旬のデータ)が存在している事を明らかにした。 調査対象地は,広島県三次市西河内町(北緯34度49分7秒から同51分34秒まで,東経132度49分12秒から同51分57秒までの範囲。東京測地系による。)とした。解析には,アスター画像を使用した。 調査方法は,あらかじめ現地を巡検し,眺望良好な場所から,スギ林,ヒノキ林の分布を大まかに把握し,地図上の位置を確認した。この調査結果を元に,衛星データとの照合(グラントトゥルース)を行い,スギ林,ヒノキ林の分布を正確に表現している衛星データを選定した。また現地調査を補完するために,航空写真を使用した。 調査の結果,スギ林の分布を正確に示したのは,初夏(2002年 5月 2日)の近赤外バンド画像であった。 この時期の近赤外画像では,スギ林の分布箇所の輝度が周辺のヒノキ林やマツ林および広葉樹林に比べて(暗く)なっている事が観察された。 さらに,この地域での近赤外画像によるスギ林の判定適期を推定するため,2003年6月6日のデータを観察したところ,対象地域は雲に覆われていたが,隣接地域でも同様に,スギ林の近赤外データの輝度値に低下が確認された。これにより,スギの旬は,おおよそ5月10日から6月10日までの1ヶ月間程度と推察された。 一方,春(2002年 5月 2日)のデータでも,スギの所在を示す輝度値低下の傾向が見られたが,初夏ほど明確でなかった。 また,ヒノキのみを抽出できるバンドは存在しなかったが,スギ林とヒノキ林の両方を含んだものの分布については,冬季の可視光の赤バンド画像が正確に表現していた。スギ林およびヒノキ林は,周辺のマツ林や広葉樹林と比較して,明確な輝度値の低下が観察された。 このため,あらかじめ初夏のデータでスギを抽出しておき,次に冬季のスギ,ヒノキ林からスギ林を除外する事で,ヒノキ林のみの抽出が可能になった。 なお夏季および秋季のデータでは,どのバンドを使ってもスギ,ヒノキを判読する事はできなかった。 またランドサットやJERS-1,ADEOSなどの異なる衛星データからも同様の結果が得られた。このことは,当手法の汎用性を示している。 今回の結果から,衛星データには植生区分に有効な「旬のデータ」がある事が明らかになった。この「旬のデータ」の存在は,近赤外線を反射する葉中の葉緑素の量が季節により変動している可能性を示唆しており,今後は年間の葉緑素量変化について調査し,今回得られた結果との関係について調査する予定である。

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© 2004 日本林学会
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