日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1003
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生態
種子と実生ステージにおけるヤチダモの遺伝子流動パターン
*後藤 晋吉丸 博志高橋 康夫
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抄録

 北海道の河畔林や湿地林を代表する樹木で,森林の骨格となりうる高木種であるヤチダモについて,種子と実生のステージにおけるヤチダモの遺伝子流動パターンを比較し,デモグラフィックな過程における遺伝的多様性の維持機構について検討した.北海道中央部に位置する東京大学北海道演習林の岩魚沢保存林内に設定した5haプロットにおいて,3個のマイクロサテライトマーカーを利用して,成木88個体,母樹別種子203種子,当年生実生100個体のDNA多型解析を行った.母樹別種子の父性解析の結果,52種子(25.6%)はプロット外からの花粉流動で,プロット内の花粉散布距離は,56.5m±41.3m(平均±SD)となった.特に,10m以内のごく近隣に雄個体が分布する2母樹(No.51,52)は,特に近隣の雄個体からの花粉を多く受粉していたが,プロット内でも100m以上の花粉流動が認められたほか,プロット外(80m>)からも25%以上の花粉流動が確認されたため,近距離交配と長距離交配という2つのイベントが起こっているのではないかと考えられた.当年生実生の両親解析では,29個体の両親がプロット内に決定された.実生と決定された母親の距離(種子散布距離)は76.7±49.4m(平均±SD)であり,決定された父親と母親の花粉散布距離は82.5±42.5m(平均±SD)であった.花粉流動パターンについて種子と実生のステージで距離クラス別の交配頻度を比較すると,種子ステージでは20m以内の近距離交配が約25%を占めるが,実生ステージでは約10%と低下した.プロット内の成木88個体について,個体間のKinship coefficientを調べた結果,25_から_50mといったごく近い距離クラスで有意に正の値を取ることが示された.以上の結果から,ヤチダモでは,近距離に分布する個体間の血縁度が高いため,近距離交配は種子ステージでは存在するが,実生ステージでは近親交配の影響で消失するという仮説が立てられた.

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© 2004 日本林学会
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